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ブランドイメージ毀損を恐れたIOC 五輪マラソン札幌移転から見えること

 GBL研究所理事・宮田正樹

 10月16日にIOC(国際オリンピック委員会)が突然発表した「マラソンと競歩の会場を札幌に移す」との決定は、小池百合子東京都知事の政治生命をかけた抵抗もあり、札幌移転の追加経費は東京都に負担させないなどの常識的な着地点で落ち着いた。今回目の当たりにした五輪開催に関するIOCの立場・考えを整理してみる。

 IOCの意向で動く

 五輪の主催者はIOCであって、全権はIOCが握る。オリンピック憲章(「憲章」)によると、主催都市は「オリンピック競技大会を開催する栄誉と責任」を担うにすぎず、その実行部隊である大会組織委員会を含め、IOCの意向で動く手足のような立場なのだ。

 また、開催に当たりIOCと取り交わした「開催都市契約」では、IOCはテクニカルマニュアル、指針およびその他の指示を修正し、かつ新たにそれらを発行する権利を留保し、開催都市、JOCおよび組織委員会は、これらの修正あるいは新規の指針・指示など全てに対応しなければならない。この上で「IOCは、オリンピック憲章に基づき、また、IOCがその単独の裁量にて本大会にとって最も利益になると考えた場合、いかなる時でも、競技、種別および種目に変更を加える権利を留保する」と明示している。

 開催時期の決定権は、憲章によると「IOC理事会」とされている。実は、この文言は2004年の憲章で改正されたものだが、それ以前においても、IOCは夏季五輪の開催時期を「7月15日~8月31日まで」と設定していた。

 これは、7月半ばから8月末は欧米で人気スポーツが開催されておらず、最大の放映権購入者である米国テレビ局の意向を配慮し、高く買ってもらうためだ。事実、アメリカのテレビ局NBCUは、14年ソチ冬季大会から20年の東京大会まで4大会の米国放映権を43億8000万ドルで、さらに22年冬季から32年夏季までの6大会の米国放映権を76億5000万ドルもの巨額の金額で獲得している。

 今回クローズアップされたように、猪瀬都知事時代の13年に東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会がIOCに提出した「立候補ファイル」には、東京大会の理想的な日程として7月24日の開会式後、25日から8月9日までの16日間で開催し、閉会式は8月9日に予定すると記述している。この時期の天候は晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候だからだ。

 前述のごとく、「20年大会は7月15日から8月31日の間」と指定して募っているからには、秋に開催するという選択の余地はなかったわけだが、盛りに盛ったものである。IOCもバカじゃないからこれをうのみにはしていなかったと思うが。

 世界陸上での危機感

 突然の会場変更決定は、9月27日から10月6日にかけてカタール・ドーハで開催された世界陸上での競歩・マラソンにおける棄権選手続出にIOCが受けたショックと危機感の大きさを物語っている。

 暑い国と認識されているカタールで生じたトラブルでさえ、映像から受けたインパクトは大きく、これが五輪の場で生じたならば、そのブランドイメージの毀損(きそん)の度合いは計り知れない。そうなると、放映権、スポンサーシップ契約などからの収入の激減や、五輪招致希望都市が一層減少する恐れもあり、売り手市場を形成してきた五輪そのものの存続基盤が崩壊しかねないとの危機感を募らせたのであろう。

 今回の決定を機会に、開催期間や開催地の決定について、IOCにアスリート・ファーストへの動きが出てくると、今回の騒動も歴史的な価値を持つことになるであろう。

【プロフィル】宮田正樹(みやた・まさき) 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。

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