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スタバより「タリーズ派」が密かに増加中のワケ 親会社・伊藤園の影響 (2/2ページ)

 舌をかみそうなメニューも少ない

 カフェの基本となる「コーヒー」は、タリーズでは、担当者がコーヒー生産地に直接出向いて生豆を調達する。産地のブランドやグレードなどにこだわらず「ユニークで際立った特徴がある」といった条件で、カッピングによる味と香りの評価で選ぶという。こうして調達された豆を国内の工場で焙煎する。その豆を店内で淹(い)れるのは社内のバリスタ(コーヒー抽出者)だ。

 「ご注文後にバリスタが半自動式マシンで1杯ずつ丁寧に抽出します。コーヒー粉の重量、抽出時間、抽出量など細かいルールがあり、ボタンを押せば出てくる飲料ではありません。品質維持やスキル向上のねらいもあり、毎年バリスタ競技会も実施します」(山口さん)

 引いた視点でタリーズの活動を見ると、スタバへの意識がチラ見えする。例えば従業員をスタバは「パートナー」、タリーズは「フェロー」と呼ぶ。バリスタ競技会は両社ともに約20年前(ほぼ同時期)から行い、その名称は前者が「アンバサダーカップ」、後者が「バリスタコンテスト」だ。

 このように、時にミステリアスな表記をするスターバックスに比べ、タリーズはメニューでも比較的分かりやすく、舌をかみそうな表記は少ない。例えばフードメニュー「小エビの明太子パスタ~白ワイン仕立て」、ドリンク「カプチーノ」や「ハニーミルクラテ」などは中身がイメージしやすい。定番のコーヒー豆の名称は「ハウスブレンド」だ。

 こうした姿勢は、「お~い お茶」ブランドが有名な伊藤園の影響も受けていると思う。

 学生からは「行ったことがない」という声も…

 一方で課題もある。例えば若い世代の利用頻度は、スターバックスに比べてタリーズは低い。メインの顧客(25歳~39歳)が約35%を占めるのに対し、25歳までの利用者は約25%にとどまっている。

 今月、筆者は、ある国立大学の学生から「スタバはよく行くけど、タリーズは行ったことがない」という声をいくつか受け取った。学生への訴求をどうするかはさておき、次世代を担う若者の利用度が高いほうが、ブランドへの親近感につながると思う。

 また、タリーズのパンやパスタといったフードメニューへの評価も、ずばぬけて高いわけではない。決して低評価ではないが、競合はフードメニュー強化に乗り出している。例えばスタバは「プリンチ」というブランドで、自家製ベーカリーに力を入れ出した。ドトールのパンメニューには根強い人気があり、プロントは昔からパスタメニューが充実している。

 タリーズの「本日のコーヒー」は現在12種類もあり、各店が自由に決められるという。そうした気どらない訴求も人気の秘密だが、筆者は、もう少しティーメニューに注力してほしいと思う。このあたりは親会社の伊藤園と試行錯誤もできるのではないだろうか。

 茶系飲料にも力を入れれば強みを生かせる

 11月1日にオープンした東京・渋谷駅前の商業施設「渋谷スクランブルスクエア」には、大手から個人店までのカフェチェーンが多く出店した。施設内の9階には「タリーズコーヒー」があり、10階には伊藤園が運営する「ocha room ashita ITOEN」(オチャ ルーム アシタ イトウエン)という店もあり、高価格な茶系飲料を提供する。11月8日に視察した時は、両方の店ともに繁盛していたが、まだご祝儀相場段階だろう。

 昭和から平成を経て、圧倒的にコーヒーを好む人が増えたが、消費者の中には「実はコーヒーが苦手」という人もいる。スタバの陰に隠れがちなタリーズが、コーヒーの陰に隠れがちな茶系飲料により注力すれば、「強みを生かす」取り組みになりそうだ。(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

 高井 尚之(たかい・なおゆき)  経済ジャーナリスト/経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。(PRESIDENT Online)

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