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ロシアの闇が狂わす構想 選手は“世界のスポーツの孤児”に

 やっぱりロシアは日本にこない。世界反ドーピング機関(WADA)常任理事会は9日、2014年ソチ冬季大会での組織ぐるみのドーピングに絡んだデータ改竄(かいざん)問題で、ロシアを4年間、主要国際大会への出場停止とする処分を決めた。開幕まで7カ月あまりとなった東京オリンピック・パラリンピックから排除される。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 ロシアは18年平昌冬季大会に続いて東京に選手団を派遣できない。さらには22年北京冬季大会や同年のFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップにも出場できず、モスクワ招致を目指す30年夏季大会立候補も受け付けられない。

 ドーピングで孤独感

 ロシアの政府、オリンピック関係者は「スポーツに政治を持ち込んだ」と反発、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴する構えだ。しかし、国際オリンピック委員会(IOC)はWADAの決定は「順守すべき義務」(トーマス・バッハ会長)としており、処分は覆るまい。

 潔白が証明された選手は個人資格で参加を認められる。ただ平昌大会と同様にロシアを名乗れず、国旗・国歌も使用できずに孤独感を味わうだろう。スポーツ大国復活を目指すロシアのカレンダーが狂い、選手は“世界のスポーツの孤児”となる。

 同情はするが、母国の反ドーピング意識の欠如が招いた結果である。恨むはドーピング撲滅を推進する国際社会ではない。しかし、闇を抱える国に批判を許すほどの許容力はあるまい。

 困惑と失望感は、実は日本の自治体にも広がっている。選手の事前キャンプ地、ホストタウンとして選手たちを迎え、文化イベントを準備、交流事業を進めてきた市町村である。8日付の産経新聞は新潟市や新潟県加茂市、北海道根室市、大阪府池田市などホストタウンとしてロシア選手団の受け入れを予定する8自治体を特集した。いずれもニュアンスこそ違え、「今後の動向を注視したい」と戸惑いを隠さない。

 このホストタウン構想はオリンピック史上初めて実施される日本“自慢”の取り組みだ。数多くの国・地域の選手・役員や観客の来訪を日本情報の発信の好機ととらえ、国が積極的に支援している。

 例えば、交流事業費の半分を国が「特別交付税」として財政支援するほか、施設改修の支援として国際基準を満たすために必要な既存施設の改修費用を対象とした「地方債」発行の容認。そして障がい者スポーツ振興と高齢者社会をにらみ、民間施設、交通施設のバリアフリー化に元利償還金の30~50%を「特別交付税」として措置する。

 国内自治体にも“影”

 もちろん、交流事業費全てが賄えるわけではないが、外国との交流に積極的な自治体にはいいきっかけとなっている。11月30日現在、ホストタウン登録数は392件に上り、464自治体が156カ国・地域を受け入れ、応援している。

 大陸別ではオセアニア(100%)、欧州(88%)の受け入れ率が高く、アメリカ(76%)が続き、アジア(66%)、アフリカ(63%)は伸びていない。自治体の好みの結果だろうか。まだ51カ国・地域のホストタウンが決まっておらず、主導する内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部ではさらなる積み上げをねらっている。

 しかし、ロシアが除外されると特別交付税の対象から外れてしまう。そうなればホストタウンから降りる自治体も現れ、推進本部の構想に水を差しかねない。今回のロシアのドーピング問題はここまでも影を落とす。20年が抱える負の要素の一つである。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』『オリンピック略史』など多数。

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