テクノロジー

「脱炭素社会」の切り札になるか、CO2を出さない水素 普及には課題も (1/2ページ)

 次世代エネルギーとして期待される水素をめぐり、企業が技術開発を加速している。近い将来のビジネス化をにらみ、運搬船の建造やサプライチェーン(供給網)の構築、製造装置の開発など多様なプロジェクトが進行中だ。利用の際に二酸化炭素(CO2)を出さない水素は「脱炭素社会」の切り札として注目されるが、本格的な普及にはコスト削減が課題になる。(林佳代子)

 世界初の運搬船

 去年12月11日、川崎重工業の神戸工場(神戸市)には約4千人の人だかりができていた。目当ては、同社が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式。一般的な商船の進水式の4倍に及ぶ観衆が詰めかけ、関心の高さをうかがわせた。

 同社は岩谷産業などとともに、オーストラリア南東部のビクトリア州で石炭の中でも低品質な「褐炭」から水素を取り出し、マイナス253度に冷やして液化した上で、神戸空港島に建設中の貯蔵基地に運ぶプロジェクトを進めている。冷却して液化する点は、液化天然ガス(LNG)と同じ仕組みだ。船は今後、液化水素を貯蔵するタンクが取り付けられ、2019年度には実証に使われる予定だ。

 川崎重工によると、液化水素の運搬船には、LNG運搬船に比べ10倍の断熱性が求められる。海上の揺れに強いタンクを製造するには高度な技術が必要で、現在は技術開発で日本が世界をリードしているという。

 川崎重工や岩谷などは、日本の総発電量の240年分に相当する褐炭が埋まっているとされる豪州のほか日本で水素インフラを整備し、「つくる」「運ぶ」「ためる」「使う」にまたがるサプライチェーンを構築する構想を描いている。「すいそ ふろんてぃあ」が一度に運べる液化水素は1250立方メートルだが、令和4年度までには16万立方メートルを運べる大型船の技術開発にめどをつけたい考えだ。

 川崎重工の西村元彦・水素チェーン開発センター長は「LNGは運搬船ができたことで一気に普及した。水素も船の登場で大量に使われるようになることに期待したい」と話す。

 製造装置で競争

 将来の商機を見据え、他の企業も技術開発に前のめりになっている。

 パナソニックは去年8月、家電製品を生産する草津工場(滋賀県草津市)に水素ステーションを設置した。令和7年までの発売を目指して開発を進めている小型の水素製造装置の実証機を用い、燃料電池で動く構内のフォークリフト向けに水素を供給している。

 開発中の装置は、家庭用燃料電池のガス改質技術を応用し、都市ガスなどを原料に水素をつくる。同社は純水素燃料電池も開発しており、3年に発売する予定だ。

 また、大阪府などで2カ所の水素ステーションを運営する大阪ガスは、すでに都市ガスを利用した小型の水素製造装置の販売を始め、より安価な製品の開発にも着手している。これまでに36台を受注・販売しており、広報担当者は「将来的に過半のシェアを握るのが目標」とする。

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