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操糸工たった1人で伝統守る 愛媛の高級絹糸「伊予生糸」

 愛媛県西予市特産の高級絹糸「伊予生糸」は、同市の野村シルク博物館に隣接した工場で井関奈央さん(36)がたった1人で製造している。前任者の定年退職を機に約9年前から繰糸工として働き始めた。「私がやめたら誰もいなくなる。誰かにバトンを渡すまではやめられない」と旧式の繰糸機を動かし続ける。

 伊予生糸は、加熱乾燥せず5~6度で冷蔵保存した繭を原料とする昔ながらの「生繰り法」で作られる。多条繰糸機と呼ばれる機械を使い、10個ほどの繭から引き出した糸を低速で1本により合わせる。高速の自動繰糸機に比べ生産効率は悪いが、特有のふんわりとした風合いと気品のある光沢が生まれる。

 井関さんは同市野村町地区で生まれ育った。高校卒業後に地元のスーパーに5年間勤めたが、その先もずっと働くイメージが持てなくなって辞めた。2009年に同博物館で開かれている染織講座を受講し、繰糸工に興味を持った。

 1人で作業するため「自分の失敗は自分に返ってくる。毎日同じことをしても同じ結果にはならない。だからこそ奥深い」。全てがうまくいくと「なんていい日なんだろう」と笑みがこぼれる。

 同僚がいた時期もあったが、技術を習得してやりがいを感じられるようになるまで時間がかかるだけに、長くは続かなかった。「良さを分かってくれる人がいるうちは、伊予生糸の伝統が残っていてほしい」と願う。

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