高論卓説

ソニー株が上昇している理由 コンセプトカーで巨大市場名乗り好感

 年明け以降、ソニーの株価が急上昇している。10日には株式時価総額が2000年以来、19年ぶりに10兆円の大台に復帰。トヨタ自動車、NTT、NTTドコモ、ソフトバンクグループに次ぐ5位につけており、さらに順位を上げていく勢いだ。

 株価好調の理由は、年明けに米ラスベガスで開催された世界最大の家電IT見本市「CES2020」において吉田憲一郎社長がコンセプトカー「Vision-S」を発表したことが、高く評価されているからだ。

 このコンセプトカーは4人乗りセダン。多くの自動車部品メーカーなどと共同で開発したもので、ソニーが圧倒的な強みを持つ「CMOSイメージセンサー」を用いた自動運転技術と、社内のエンターテインメント空間設計で独自性を出している。

 現在、CMOSイメージセンサーは主にスマートフォンのカメラとして使われている。これが絶好調でソニーは昨年10月、2020年3月期の半導体セグメントの営業利益予想を期初予想から550億円も引き上げている。その上、今後は自動車向けにも伸びていくとなれば、ますます業績にはプラスだ。

 ソニーはウォークマン(携帯オーディオ)がアップルのiPodに惨敗してからというもの、消費者市場における技術リーダーのポジションを完全に失ってしまった。アップルが05年に投入したiPod nanoによって完膚なきまでにたたき潰され、その後はスマートフォンにも乗り遅れた。薄型テレビでも韓国勢にシェアを奪われてしまった。

 しかし、ここに来て業績を急回復させているのは、なぜなのか。それは焼け野原の中から独自の強みを持つ製品が継続的に出ているからだ。ミラーレス一眼カメラなど新しい分野の開拓に成功しただけでなく、家庭用ゲーム機、オーディオ製品でも根強いファンをつなぎとめることができた。さらに前述のCMOSイメージセンサーをアジア勢の攻勢から守り、世界シェア5割をキープしている。日本の大手メーカーが軒並み半導体事業からの撤退に追い込まれる中で、世界プレーヤーとして勝ち残ることができた。

 社員のモチベーションも高い。前社長の平井一夫氏の身の処し方が鮮やかで、多くの社員が好感を持ったことだろう。平井氏は業績回復を見届けて18年4月に吉田社長にバトンタッチ。既に会長も退き、ソニーからの卒業を明言している。同12年に社長になったパナソニックの津賀一宏氏が「辞めたくても辞めさせてもらえない」と発言しているのとは対照的だ。

 ただ心配はあった。吉田社長がこれまでの2年弱、ほとんど独自のカラーを示してこなかったことだ。しかし、CESで世界に向かって自らの言葉で発表したコンセプトカー「Vision-S」でその心配はすっ飛んだ。吉田社長は「現在のところ量産はしない」と言っているが、将来の自動車参入を否定しているわけではない。これから本格化するCASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)時代における新興自動車メーカーになるのかもしれない。

 パソコンメーカーだったはずのアップルがソニーの強みである携帯オーディオを簒奪(さんだつ)するのを目の当たりにしたのがソニーだ。そしてキヤノン、ニコンという2強が寡占していた一眼カメラ市場に食い込むことに成功したのもソニー。市場の変化はピンチでもありチャンスでもあることを身をもって体験している。吉田ソニーは満を持して、巨大マーケットに名乗りを上げたといえる。株式市場で高く評価されるのも当然なのである。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。週刊東洋経済の編集者、IT・ネット関連の記者を経てニュース編集長、東洋経済オンライン編集長を歴任。2019年1月から週刊東洋経済編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。

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