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消えた幻の名酒「酔人日」復活 和歌山の初桜酒造、常連客の記憶たどる

 かつて紀州藩の酒どころとしてにぎわった和歌山県北部、紀の川上流域。一帯で造られた日本酒は「川上酒」と呼ばれ、同県かつらぎ町では最盛期に16の酒蔵が軒を連ねたが、今では1軒が残るだけとなった。その「初桜酒造」4代目の笠勝敦夫さん(33)が、地元の酒文化をもり立てようと、約20年前に醸造元の休止で消えた人気銘柄を復活させた。

 紀の川上流域は年間を通して気温が低めで、和泉葛城山からの豊富な伏流水に恵まれる。江戸時代には川を伝って全国に酒が運び出されたが、担い手不足などで蔵元が相次いで消えた。

 「他の酒どころと違って宣伝がうまくなかったのではないか」と笠勝さん。進学のため東京へ出た際に知名度の低さを痛感した。友人らに川上酒の特徴や文化を紹介するうちに、再興への思いが湧き上がった。

 「知られずに消えるのはもったいない。日本中の人に知ってほしい」と注目したのが、かつて地元で最も人気を博しながら醸造元の廃業でなくなった銘柄「酔人日」。

 同町にあった帯庄酒造が1926年ごろから販売し、当時としては珍しいワインボトル形の瓶で土産物として人気を集めた。復活させれば、当時を知る客と新規の客両方にアピールできる。「何より名前に引かれた。人が集まり、酔っ払って楽しく過ごす日というのは、僕が願う飲まれ方にぴったり」と笠勝さん。

 しかし、自分も杜氏(とうじ)も口にしたことがなく、3代目で父の清人さん(65)も数回しか飲んだことがなかった。味を知る常連客の声や少ない資料を基に、スイートピーのような華やかさと落ち着きを併せ持つ香りや口当たりを模索。

 大正や昭和の時代には秋口まで寝かせた酒が好まれていたことから「秋上がり」の大吟醸にした。ワインボトル形の瓶も再現し、昨年12月に発売。笠勝さんは「詳細が分からないから僕の好みも影響している。飲んだことがある人にはぜひ情報を寄せてもらい、第2弾を手掛けたい」と目を輝かせている。

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【用語解説】初桜酒造

 幕末に地元の名士が酒造りを始め、創業。1938年に笠勝家が事業を引き継いだ。世界遺産・高野山の麓にある和歌山県かつらぎ町天野地区で育てた酒米を使った純米酒や純米吟醸酒のほか、果実酒やみりんなども造る。「酔人日」は同社店舗のほか、同社のサイト「はるの和」から購入できる。720ミリリットル入り5000円。問い合わせは同社、0736・22・0005。

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