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「答え」や「解き方」よりも「問い」が重要

 ビジネスリノベーション社長・西村佳隆

 イノベーション(革新)を起こすために、何か革新的な戦略・方針、商品・サービスが生まれるノウハウなどの「答え」や「解き方」を期待されている人が多いだろう。しかし、これらを期待する前に「問う」ことこそが極めて重要だ。

 逆に言うと「改めて問う」ことをしないから、テコ入れが既存製品(サービス)の延長線上でとどまり、これまでのやり方から抜け出せない、突破口を見いだせない、競合との差別化ができない、という状況になってしまう。これにより、単純な機能・性能競争や価格競争に陥る。

 「問い」は最初から切れ味鋭いわけではない。主に「誰にどんな価値を感じてもらうのか」に関する問いをトライ&エラーの中で鋭くしていく。例えると、イノベーションに関する問題用紙を前にして、いきなり解き始めるのではなく、その問題の背景を考察したり、「そもそもこの問題は適切なのか」ということに考えを巡らせたりする。私たちは学生時代から、与えられた問題を素早く正確に解くことに慣れているので、意識して取り組まないと難しい。

 また、同じ業界、同じ会社に長年どっぷりと漬かっていては、価値観と視点が固定化されてしまう。若者、よそ者、固定観念にとらわれないバカ者の知恵を受け入れ、それをシャッフルすべきだ。

 具体的に、ある部品メーカーを例に考えてみる。この会社は、取引先企業からのコストダウンや納期短縮の圧力が強く、疲弊し、何か手を打たなければならない状況にある。通常、社内でなされる問いは「どうすればもっとコストダウンできるのか」「どうすれば納期短縮ができるのか」だろう。

 そこで問いを変えてみる。「わが社の価値は何だろう」「この部品に期待されていることは何だろう」「何に困ってこの部品が使われているのか」「真の顧客は、取引先の購買担当者なのか」「誰の困りごとを解決できるのか」など。問いが変われば課題が変わる。課題が変われば行動と対策が変わり、アウトプットが大きく変わる。そこからリノベーション(価値の再定義)が生まれるのだ。

 イノベーションは「問い」にこだわったプロジェクトの中から生まれる。もちろん改善に終わることも多いだろう。一足飛びには難しいので、外部の知恵と協働してトライ&エラーを進めるべきだ。トライ&エラーを前提にすると、低リスクで取り組む必要がある。そのためには「問い」にこだわる。この流れがリノベーションの要諦だ。

【プロフィル】西村佳隆

 にしむら・よしたか 横浜国大工卒。ヤマハ発動機、ワタミ、サミーネットワークスなどを経て、2015年ビジネスリノベーションを設立。事業活性化支援を行う。日本医療デザインセンター理事、経済産業省認定経営革新等支援機関、立命館大デザイン科学研究センター客員研究員。著書『ビジネスリノベーションの教科書』で価値の再定義を主張。51歳。京都府出身。

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