令和2年春闘でトヨタ自動車は、一律賃上げのベースアップ(ベア)について7年ぶりのゼロ回答を選択した。新型コロナウイルス拡大の影響ではなく、賃金水準が既に「国内トップレベルにある」との判断からだ。総額では一定の賃上げを回答し、労働組合側も理解を示して「ベアゼロ」ショックの他社へのドミノ波及を否定する。ただ、トヨタは1兆円を超す利益を生み出す超優良企業だ。電気自動車などで他業種参入も相次ぐ厳しい業界環境が背景とはいえ、疑問の声も上がる。
「平成14年当時と次元はまったく異なる。今回は他の主要・中堅労組も着実に回答を得ている」。トヨタグループの約300の労組で構成する全トヨタ労連の山口健事務局長は記者会見で、ベアゼロのドミノ波及を強く否定した。
「平成14年」とは、当時史上最高益を見込む中でベアゼロとなった年だ。結果的に他業界も追随、その後も数年にわたり日本全体で賃上げが停滞した経過は「トヨタショック」とも呼ばれる。
近年、自動車春闘でベアの意味合いが変わったのは確かだ。中小企業の上げ幅がトヨタに左右される“悪習”打破として一昨年、豊田章男社長がベア内訳を非公表としたのを機に、昨年から自動車労連も統一要求額提示を見送り。横並びのベアだけでなく、企業の個々の実態に応じた絶対賃金額を重視する流れとなって定期昇給などの議論も進み、大手と中小の格差も縮まってきている。
トヨタの回答のうち中堅技能職の個別水準額は、自動車総連が目標に掲げた「37万円」を上回った。西野勝義執行委員長は「(高水準との)会社側の問題意識は理解できる」と話す。
高倉明・自動車総連会長は「全従業員が等しく上がる企業は既に少ない」とし、経団連の中西宏明会長もトヨタについて「賞与は満額となるなど、従業員のやる気を引き出す回答ではないか」と理解を示した。
ただ、超優良企業のトヨタがベアを見送ったことに対しては、政府内で疑問の声も上がりそうだ。(今村義丈)