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本場所収益は27億円減 大相撲の無観客場所に思う

 がつんとぶつかる音、荒い息遣い。日ごろ、観客の声援やざわめきのなかで聞くことのできない大相撲の音がテレビから伝わってくる。行司や呼び出しの名乗りもより鮮明に聞こえた。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 新鮮な発見とともに、横綱土俵入りで観客から発せられる「ヨイショ」の掛け声が聞こえてこない。立ち合いの時間に巻き起こる拍手もない。分かってはいても拍子抜けである。

 1945年の夏場所以来

 大相撲春場所は8日、新型コロナウイルス感染に配慮して無観客で幕を開けた。15日間、慣れてはいくだろうが、改めて声援の大きさを思う。

 本場所の無観客開催は戦時下の1945(昭和20)年6月の夏場所以来。5月に予定されていたが、この年3月の東京大空襲で旧両国国技館の大屋根に穴が空き、晴天の日のみ7日間、傷病軍人らを招待しただけで一般には非公開で行われた。あの角聖・双葉山の最後の土俵となった場所である。

 近年では2011年春場所が八百長問題で中止され、夏場所は「技量審査場所」として無料公開された。その11年度の日本相撲協会の事業収益は54億4000万円。前年よりも29億8000万円減となり、赤字は48億円超に上った。過去最大級であったことはいうまでもない。ちなみに本場所収益は前年よりも27億2000万円減の48億6000万円。いかに大相撲が本場所開催によって成り立っているかが分かる。

 この春場所は1日約7000席の前売りチケットが15日分完売していた。無観客開催となり、払い戻しが始まるが、金額は10億円を超えるという。NHKの中継は通常通りで4億円とも5億円ともいわれる放送権料に変化はないものの、入場料収入の減収は協会財政に大きな影響を与えることは間違いない。

 「せめて夏場所までにはこの状態から回復してほしい」。夏場所初日は5月10日。関係者の祈るような思いは、ファンならずとも共通の思いだ。

 日本相撲協会はまた、春場所後、29日の伊勢神宮奉納相撲に始まる春巡業を中止した。11年の春巡業も春場所とともに中止され、通称「相撲茶屋」といわれる相撲案内所や巡業の勧進元に対する補償として3億7000万円を支出した。今回も当然、補償することになる。

 今年の春巡業は近畿、関東の25カ所を巡る予定だった。春に限らず、巡業は地方のファンにとって力士の姿を目の当たりにできる数少ない機会。協会にとってもファン層の拡大、さらなる相撲人気向上のための格好の場となる。金銭問題以上に、相撲界には大きな意味を持つ。

 ファンの支え再認識

 相撲界は10年の野球賭博、11年の八百長と相次いだ不祥事以来、ファンとの触れ合いの機会を増やし、人気拡大に努めてきた。新型コロナウイルスの感染拡大で機会が減っていることが寂しい。せめて、テレビ桟敷のファンに思いのたけを届けてもらいたい。

 そうした中、企業名などを描いた懸賞旗がいつもの場所と変わらず取り組み前の土俵を回った。さすがに初日は83本と前年春場所の146本から大幅減。事前予約していた74社のうち39社が取りやめた(その後2社復活した)が、常連の永谷園やヤクルト本社、ウエルシア薬局など従来通りに懸賞金を提供した。1本7万円。協会手数料の1万円を除いた6万円が力士の取り分だが、いつも以上に重たい金額に違いない。大相撲は観客に支えられている。改めて思う無観客場所だ。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』『オリンピック略史』など多数。

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