専欄

武漢市民は今や“英雄” 新型コロナと習近平

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 中国では新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかり、事態は改善に向かっているようだ。このウイルスとの闘いを陣頭指揮している習近平はひとまずホッとしているだろう。

 習近平は今月10日、事態が最も深刻な武漢を視察し、武漢の人々をたたえて、「武漢は英雄的な都市であり、武漢の人民は英雄的な人民である」と語った。党機関紙「人民日報」(3月12日付)はこれを受けて、「英雄的都市、英雄的人民」と題する論評を掲載した。

 武漢市民は今や英雄である。武漢の人々を英雄視することによって、ウイルスとの「人民戦争」が多数の犠牲者を出しながらも勝利しつつあることを国内外にアピールできるだろう。それは中央の指導者の指示、政策の正しさを証明することにもつながる。

 このウイルスとの闘いにおいて、初期の対応に誤りがあったことは中国自身が認めているが、それは武漢市や湖北省など地方の指導者だけの誤りなのか、それとも中央の指導者にも責任があるのか。

 習近平は1月中旬、予定通りミャンマーを訪問しており、習近平ら中央の指導者も1月半ばまでは、このウイルス問題に重大な危機感を抱いていなかったようにみえる。

 習近平は1月下旬以降、対策のための会議を頻繁に開き、それを公表し、北京と武漢でウイルスとの闘いの最前線を視察した。それは習近平にとって、感染拡大を制御できなかった場合、政治的責任を負うというリスクの伴う行動だった。だが幸い、少なくとも今のところは成果を挙げているようにみえる。

 習近平はまた、湖北省と武漢市のトップを2月中旬に更迭した。初期の対応で過ちを犯したのは地方の指導者であり、中央の指導者ではないことを、国民に示す狙いがあったことはいうまでもない。

 「人民日報」系列の「環球時報」(3月11日付)の社説は、「われわれには過ちを正す能力があり、それによって前進することができる」と主張し、武漢では過ちを犯したものの、「国が行動を起こした後」、事態は迅速に改善されたと述べている。たとえ地方の指導者が過ちを犯しても、中央の指導者はそれを是正して、正しい指導を行うことができると強調しているのである。

 このまま事態が終息に向かえば、習近平はその政治的立場をより強化することができるのだろうか。(敬称略)

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