マネジメント新時代

「麦わらハンドル」に学ぶ発想の転換

 日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 「Stay at Home!」

 この言葉が世界中の合言葉のようになってきている。新型コロナウイルスの影響で、不要不急の外出は避けるよう要請が出ていることから、家で過ごすことが多くなっているのではないだろうか。筆者も同様であるが、このようなとき、逆にまとまった時間が増えたと思って、中国や米国などの古典を読むようにしている。今回はその中で、なるほどと思ったことについて紹介したい。

 米自動車王の着眼

 米自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードの自伝をじっくり読む機会があった。1908年にT型フォードを発売し、自動車大量生産への道筋をつけた実業家として有名だが、自伝から判断するに、かなり多様な視点から物事を見る目を持っていた実業家でもあった。

 T型フォードが大ヒットした当時、パワートレイン以外はキャビン、ステアリング(ハンドル)なども木材を多用していたようだ。まだ自動車に使用できる樹脂が開発されておらず、主な材料は鉄か木材であった。その中でも、ステアリングは最上質の木材を使用しなければならず、かつ廃棄する材料も多かったことから、供給面で頭を痛めていたという。

 そのようなとき、ヘンリー・フォードが持つ農場にて、毎年捨てるか、ただ同然で売るしかない多量の麦わらに着目した。当然、麦わらのままでは使用できないことから、いくつかのステップを考えだした。最初に、麦わら、ゴム、硫黄、珪土、その他の材料を釜の中に入れ混合する。次にそれをチューブ状に押し出して、その上から上質のゴム状物質で被覆して、ステアリング形状に形成する。さらに、まだ柔らかいステアリング形状を蒸気加圧することで、形を適度な硬度に固める。最後に表面に磨きをかけ、プレスされた鋼鉄の十字型中軸をはめ込んでステアリング完成となる。

 この工法は当時「フォーダイト」と名付けられたものである。硬質のゴムと類似した物質を実現したとのこと。その結果、フォード社では、ステアリングのみならず、約45種類の電気系統に関係する自動車部品に採用されたようだ。その後、時代とともに、樹脂部品、さらには複合樹脂部品などが開発されるが、それまで大きな役目を果たしていた。

 この開発に当たっては、相当の期間が必要だったと思われる。しかし、目の付けどころなど、これまで捨てていた材料、目もくれなかった材料に焦点を当てたことは称賛に値する。また当時はT型フォードが売れすぎて木材を多用することで森林伐採が社会問題化していたことも、開発の背景にあったという。

 将来への備え

 さて、現在は欧米さらに日本においても、新型コロナの影響で、多くの工場が停止し、リモートワークで働かざるを得ない人も増えている。自動車産業にとっては嘆かわしいことであるが、逆にいえば、じっくり考える時間ができたともいえる。

 これまで新商品・新プロセス開発に対して、多忙で時間がないことを理由にしてきたが、白紙の状態から考え、発想の展開を図る良い機会ではないだろうか。

 一方、既に都市封鎖が解かれようとしている中国では、いち早く多くの産業が動き始めている。彼らも約3カ月間、閉じ込められていたため、これまでの停滞を一気に取り戻そうと活動し始めるのではないだろうか。これはガソリン車、新エネルギー車、さらには自動運転車なども同様であろう。

 残念ながら、日系自動車メーカー、部品メーカーは、これから厳しい時期を迎える。このタイムラグはかなり危険である。マネジメント層は、“新型コロナ後”を見据えて、何を準備しておくかが重要となってくるであろう。

 「孫子の兵法:九変篇」には、「故に用兵の法は、其の来たらざるを恃(たの)むこと無く、吾れの以て待つ有ることを恃むなり」とある。用兵の原則として、敵が来ないのをあてにせず、いつ来てもいいように備えておくべきと説いている。はたして今の日本の自動車産業はどうであろうか。

                  ◇

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。63歳。福井県出身。

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