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音の信号処理が「字幕メガネ」に

 エヴィクサー社長・瀧川淳

 松竹・KADOKAWA配給映画「Fukushima 50(フクシマフィフティ)」が3月に公開され、ヒットしている。ところで、新型コロナウイルス感染症拡大予防の観点から大規模な告知は見送られたものの、この映画の公開と同時に全国60超の映画館で開始されたサービスがあるのをご存じだろうか。「字幕メガネ」の貸し出しサービスだ。

 「字幕メガネ」は、「メガネ型ディスプレー端末で見る字幕ガイド」だ。透過型のレンズに表示した字幕が映画のスクリーンに重なるように浮かび上がり、聴覚障害者も映画を楽しめる。障害者が健常者と同じスクリーンで同時に映画を楽しむための仕組みの一つであり、映画業界で長年にわたって検証されてきた。メガネ型端末はまだ一般に普及しておらず、このような仕組みがインストールされた「字幕メガネ」が貸し出されることになった。

 一方、視覚障害者向けには「スマートフォンのイヤホンから聴く音声ガイド」が専用アプリ「HELLO! MOVIE」(ハロームービー)としてiOS・Android向けに無料で提供されている。スマホは広く普及しているのでユーザーの持ち込みで対応し、2015年ごろから定着してきている。

 この「字幕メガネ」「HELLO! MOVIE」の開発・提供を行っているのがエヴィクサーで、筆者が社長を務めている。エヴィクサーは「音の信号処理」が生業で、いわゆるシーズ技術の開発企業だ。この連載では、「音の信号処理」が「字幕メガネ」となるように、「技術やシステムに名前が付く」ことの経緯やポイントを、持続可能な開発目標(SDGs)などの社会テーマも踏まえながら解説していきたい。

 映画館内のデバイス活用の実証実験では、「全国の映画館ならどこでも既にあるもので機能する」「操作がとても簡単」「デバイスの通信機能を無効とする“機内モード”で機能する」など、ビジネス要件と技術要件が洗い出され、エヴィクサーの「音響同期システム」に合致した。映画の音から場面を特定する機能をメガネ型端末やスマホに搭載することで、ユーザーは煩雑な操作を必要とせず、拡張現実(AR)のように手元のデバイスに字幕ガイドと音声ガイドを同期再生する機能を実現できた。

 映画関係のシンポジウムで、視覚障害者の人から「この仕組みのおかげで、映画観賞が趣味だという視覚障害者が増えている。私もその一人」とあいさつされた。社会的課題を解決するには当事者のニーズや、もっと強い「ウォンツ」に応えることが必要不可欠だと実感した。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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