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オープンイノベーションへ助成活用

 シーズ技術は、市場ニーズが顕在化していないことが多く、性能やビジネスモデルについて客観的評価を高めていくことが事業化への道標となる。自社の取り組みに終始せず、国や地方自治体などの助成事業を活用して複数の企業間での連携を成功させ、オープンイノベーションにつなげていくことが有効だ。その際、中小企業にとっては、「助成のお墨付きを得るのではなく、事業目標をオープンにして社内外にコミットする」という意識づけが欠かせない。(エヴィクサー社長・瀧川淳)

 エヴィクサーでは5年ほどの期間で、(1)官公庁の助成と実証実験(2)共創イベント「ハッカソン/アイデアソン」への技術提供(3)アワードへの応募(4)ユーザー団体への参加と協調(5)特許公開を含む知財戦略の遂行(6)大手企業との資本業務提携-などを進めた。「中小企業目線のオープンイノベーション」の実践例と言えるだろう。

 2017年には中小企業庁から新連携事業(異分野連携新事業分野開拓計画)として「伝統芸能における機動性の高い舞台解説サービス開発・事業化」が採択され、3年間の活動について助成を受けることとなった。歌舞伎・文楽のコンテンツを多く有し音声ガイドで長年実績がある企業をコア企業としつつ、能楽業界で江戸時代からの歴史を持つ企業、安定した音響通信技術を有するベンチャー企業(エヴィクサー)の3社の連携をプロジェクト体制とした。各社の強みを生かすことで、大規模劇場以外の劇場に解説サービスを提供することが可能となる。

 一見、「伝統芸能+ICT(情報通信技術)」という単純な図式に見えるものの、ユーザーの普遍的な価値を捉え、業界関係者との意思疎通、興行時における運用ルールを踏まえたシステム設計を実現するなど、プロジェクト成功には中小企業一社では賄い切れない要素も多い。また、プロジェクトを統括するリーダーシップがなければコスト要素も不明瞭で、中長期的な目標も掲げにくい。このプロジェクトは、市場ニーズに向けた強みの補完だけでなく、コア企業を明確にする体制が功を奏し、助成期間中に全国数十カ所での導入を見込むなど、新連携事業のモデルケースとして取り上げられるに至った。

 新連携事業の審査会の発表は、コア企業の代表者が行う。筆者のケースでは「日本の伝統芸能を一番分かってほしいのは実は日本人。この事業化は悲願」と力強く訴え、連携企業の結束を強めるとともに中長期の事業目標をコミットした。助成獲得が目的ではないから成功した。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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