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アワードに挑み開発ストーリー打ち出す

 エヴィクサー社長・瀧川淳

 ヒーローインタビューは、ファンにとって記録がストーリーになる瞬間だ。勝利に貢献するヒットやゴールを振り返りながら、その選手がどんな気持ちで試合に臨んでいたのか、けがやスランプをどうやって乗り越えたのかが語られ、感動を生む。ビジネスの分野でも顧客やパートナー企業などとの間で多くの共感を生むために、アワード表彰でヒーローインタビューの機会を得て、自社技術の開発ストーリーの打ち出しを客観的に始めることが有効だ。

 エヴィクサーは2017年、音響通信によるデバイス制御ソリューション「Another Track」という技術ブランドを打ち出し、東京都ベンチャー技術優秀賞、中小企業優秀新技術・新製品賞ソフトウエア部門優秀賞など複数のアワードで表彰された。シーズ技術の事業化途中フェーズでも、アワード大会への応募は有効だ。自社技術・サービスのコンセプト、事業プランを簡潔にまとめる作業や審査プレゼンを通して、幅広い分野の有識者から講評を受けることができる。結果・成果でしか評価されない実ビジネスと違って、アワードはインプット思考で臨み、「未完の大器」として応募し表彰されることが許される。

 「Another Track」は地道に積み上げた検証結果と実績、幅広い応用範囲が評価された。表彰式でのインタビューをはじめ、さまざまなメディアでの露出機会に恵まれ、「音響通信とは何か」「どんなことができるのか」「今後どんな展開を考えているのか」という質疑応答だけでなく、「どういった問題意識で」「どのような試行錯誤をして」完成に漕ぎ着けたかの苦労話を語ることができた。さながらヒーローインタビューのような感覚で、それまで点と点だった当事者だけの出来事がストーリーとなった。

 開発ストーリーは自社の存在意義を表す。メディアを通じて、自社技術の開発ストーリーを客観的に打ち出せたことは、新規メンバーの採用や、大手企業との提携などの局面で、社内外に大きな共感をもたらした。新しいニーズを探りあて、市場をつくるというシーズ技術事業化の難解なゴールなら、なおさらプロジェクトメンバー間で事業に取り組む姿勢や価値観の共有をもたらす仕掛けづくりが重要となる。

 特に中小企業は知名度の低さから、企業間連携やオープンイノベーションに取り組む際には大企業の前に埋もれやすい。開発ストーリーの醸成は、技術ブランドのスペックを裏付けるだけでなく、その技術の出自を示す上でも必要不可欠だ。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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