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「ウィズ・コロナ」 組織のバリアフリー急げ

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 ひと月ほど前、産経新聞に厳しい現実を反映した記事が掲載された。国内パラリンピック競技団体へのアンケートである。

 少し自粛効果が表れてきたものの、まだ先が見えない時期。23団体中、14団体が回答を寄せ、11団体は「延期によるスポンサー離れ」について「今後に不安」と答えていた。

 緊急事態宣言が5月25日に解除され、入館が禁止されていた東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)に選手の姿が戻ってきた。まだ封鎖以前の状態には遠いが、希望の光が見え始めている。

 しかし、パラリンピック競技団体の不安が消えたわけではない。新型コロナウイルス禍による景気の退潮は企業の支援後退を意味する。五輪・パラリンピック開催が1年延期され、3000億円ともいわれる追加費用が必要となる。多くのスポンサー企業に支えられている大会組織委員会にとっても、大きな課題となっている。予算縮小、経費削減は否めない。

 企業支援継続に不安

 競技団体への影響は甚大だ。果たしてスポンサー企業が追加支援に応じてくれるか。相次ぐ大会の中止、延期によって露出がなくなった分、スポンサーの協賛金減額が懸念される。第2波、第3波来襲となれば、支援の打ち切りも現実となろう。五輪競技をはじめとする健常者の組織はまだしも、競技人口が少なく、協賛金も小さいパラスポーツ組織には死活問題だといっていい。

 東京大会開催を前提にパラスポーツを支援するスポンサー企業は増えた。ただ、2020大会までという限定的な支援も少なくない。競技団体は東京大会の盛り上がりを機に財政基盤を整え、支援体制を構築していく手はずだった。ところが、構想はコロナ禍に突き崩れた。「不安」は無理もない。

 東京・溜池の日本財団ビル4階に29のパラリンピック競技団体が拠点を置く。2015年、日本財団の笹川陽平会長の決断で設けられた「日本財団パラリンピックサポートセンター」である。日本財団が会計処理から国際的な文章の翻訳などの共通業務をバックオフィス機能として提供。弁護士や税理士に相談できる窓口を設けるなど競技団体の担当者が業務に専念できる環境が整えられている。各競技団体には助成金も交付され、21年末まで総額100億円の予算規模は大きな支えだ。

 これはしかし、時限措置。東京大会終了後の「自立」が前提となっている。スポーツ庁やスポーツ議員連盟、そしてパラサポセンターも含めて「ポスト2020」に向けた方策が検討されている。コロナ禍の厳しい現実の中で対応が急がれる。

 進むか競技団体統合

 障害者と健常者競技の組織統合が俎上(そじょう)に載って久しい。既にドイツでは、障害者スポーツ連盟が五輪・スポーツ連盟傘下に入り、健常者と障害者との競技ごとの組織統合が進む。ノルウェーやデンマークでも同様の試みが始まった。

 日本でもトライアスロン連合や日本水泳協会が障害者競技団体を組織下に置き、日本障害者サッカー連盟は日本サッカー協会に加盟している。予算や人材活用での効果が期待され、「ポスト2020」対策として望ましい形だと考える。

 しかし組織のあり方や目標の齟齬(そご)、歴史や人間関係など乗り越えるべき壁は高く、多くの競技では健常者組織と障害者組織との融合は遅れたままだ。

 「ウィズ・コロナ」が叫ばれ、「新しい生活様式」が推奨される昨今、スポーツ界も変わるべきではないのか。垣根を超える組織のバリアフリーこそ、「不安」解消への第一歩だと思う。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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