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企業提携の間を埋める「味わい深い」商人の心得

 経営学の教科書には外来語由来のカタカナが多い。一方、日本の商売用語には、お金を受け取る行為を婉曲(えんきょく)にしながら、顧客を一見(いちげん)・お得意・ごひいき・お帳場、株主や配当を旦那衆・タニマチ・大入袋・出世払いという具合に、背景にある関係性や心理をうまく表現している言葉が多く、味わい深い示唆を与える。(エヴィクサー社長・瀧川淳)

 中小企業のオープンイノベーションでは、大手企業を相手方にして、一般顧客から関係が深化しつつ、先進的なニーズを開拓する「リード・ユーザー」としての共同開発や、出資を伴う株主となり得る。両者の関係は契約の整理だけでなく、信頼関係を揺るぎないものとするために、その局面ごとの関係性について色分けしておく必要がある。具体的には、「定量的な共通利益」をベースに「定性的な共通課題」を書き出して事業プランを策定し都度確認し合うこととなるが、その際、お互いのリーダーが商人(あきんど)の心得を取り入れて契約の行間を埋める創意工夫と謙虚な粘りも欠かせない。

 エヴィクサーは2015年から5年をかけて大手電機メーカーと、(1)商取引の反復(2)競争優位性の評価(3)共同実験(4)投資・事業戦略の共有(5)試作・カスタムの優先(6)知財戦略の協働-という流れで提携を進めた。「新しいニーズを探りあて、市場を創生する」というイノベーションを標榜(ひょうぼう)するならば、「これだけの性能を達成すれば従来技術とは別の新しい技術となる」「ある分野で安定稼働している実績があれば違う分野にも応用可能」「既に開発した趣旨のソリューションであっても新技術を組み合わせれば新規顧客の獲得が可能」などというような課題と仮説の共有を、時系列で変遷する関係性や役割の調整を乗り越えて、切磋琢磨(せっさたくま)しながら進めることとなる。

 このすり合わせは「言うは易く行うは難し」だ。中小企業にとっては虎の子の技術であり、ビジネス条件を意識しながら奥歯にモノが挟まったような物言いでリスクを覆いたくなる。大手企業側も不確実性の高いプロジェクトに経営資源を注ぎ込む意思決定は難しい。とりわけ課題を共有することは、手の内を明かすことにも等しい。

 この提携の重大局面で「どうして数万人もいる企業が十数人の企業に依頼するのか」という意見があったが、提携相手方のリーダーは必死で説得してくれた。オープンイノベーションの挑戦は、課題を乗り越える過程で培われる信頼関係がベースに必要で、それは個人にひもづく商人の心得によってより強固となる。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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