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豪雨で多数の犠牲者 氾濫しやすい盆地・地域で治水策検討を

 熊本県南部を襲った豪雨で多数の犠牲者が出た。氾濫した球磨川は上流域に人吉盆地が存在、中流には43キロに及ぶ山間の狭窄(きょうさく)部が続き、その後八代平野を流れて八代海に注いでいる。日本三大急流の一つに数えられ、人吉盆地に流れ込む河川は特に流れが速い。(布村明彦)

 今回の水害は、局地的に豪雨をもたらす線状降水帯が形成され大雨を降らしたことが最大の要因だ。その水がすり鉢状の人吉盆地に集まり、中流の山間狭窄部を流下することができず、人吉市内などの各所で氾濫した。

 急流であるだけに、急激な河川水位の上昇や氾濫を引き起こす。このような短時間の災害事象の発生・拡大の際には、氾濫が起こってからの避難行動では間に合わない。他の地域よりも事前避難が不可欠である。その準備ができていたのか検証が必要だ。

 被害が大きかった特別養護老人ホームがある球磨村は、人吉盆地の出口、つまり山間狭窄部の最上流部に当たる。川の断面が狭いため急激な水位上昇となる特徴がある。

 ここでは河川部分だけでなく道路、宅地、農地などが、いわば川の一部となってしまい大量の水が流下していく。盆地の水害と同様に、事前の早期避難が重要である。

 2016年8月の台風10号による大雨では、岩手県岩泉町の小本川が氾濫した。こちらも山間狭窄部での急激な河川水位上昇と、周辺も含む氾濫水の流下により高齢者施設で深刻な被害が出た。

 これを受け避難先や移送手段などを定めた避難確保計画の作成や訓練の実施が高齢者施設などに義務付けられた。対応が間に合わなかったのだろうか。

 日本国内にある他の盆地でも同様だが、盆地の出口は狭く大量の河川水を一度に流すことはできない。このため上流にある盆地部で河川の水位が上昇し、水があふれて氾濫しやすいのだ。

 昨年10月の台風19号による長野県の千曲川の氾濫も、狭窄部でせき上げられた川の水位が盆地部分の堤防を越え、堤防が決壊して長野市などに大水害をもたらしている。これに対応するには、狭窄部を開削し水が流れやすくする方法がある。

 ただ、一度に流れる水量が多くなり下流部の水害危険性が増すため、事前に下流部で川幅を広げたり、堤防を強化したりする必要がある。これができない場合は、盆地の方で川幅を広げる、堤防を強化する、上流のダムや遊水地などで水をためるというのが一般的な治水の方策となる。

 水害をたびたび引き起した球磨川では国が1966年に、支流の川辺川にダムを設ける計画を発表したが、環境破壊などを懸念する声が強く、県が2008年に計画反対を表明、国が09年に中止方針を示した。現在、ダムに代わる治水対策を国と流域自治体が協議している。

 地球温暖化もあって一度に降る雨量が増えることが想定される。今までの方策では、地域の安全を確保することは難しい。ダムや遊水地なども含めた治水策を議論するか、ある程度は水につかることを前提に早期に復旧・復興しやすいまちづくりを選ぶのか、その他の新たな方法を見いだすのか、地域の選択に注目したい。

【プロフィル】布村明彦

 ぬのむら・あきひこ 中央大研究開発機構教授。1952年福井市生まれ。京都大大学院修了。建設省(現国土交通省)に入り河川計画課長、近畿地方整備局長、関西大客員教授などを経て現職。日本災害情報学会元会長。共著に「地球温暖化図鑑」。

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