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「芸術工学」が導くベンチャー像

 エヴィクサーの技術者が名刺交換する際、肩書や英語表記を見た相手から「芸術工学とはどんな研究をされていたんですか」「英語だとアコースティック・デザインと表現されるんですね」と質問を受け、話が弾むことがある。営業の“アイスブレイク”といえるが、示唆に富む学術用語は技術者のバックグラウンドを知らせるだけでなく、取り組む事業の拡張性を代弁し、シンパシーを生むきっかけとなる。(エヴィクサー社長・瀧川淳)

 芸術工学の最高学府・ルーツは九州芸術工科大学、現在の九州大学芸術工学部。『技術の人間化』というユニークなスローガンの下、「いかに技術を人間生活に適合させるか」「人間が技術を賢く利用することによってより幸せな生活を送るため」と掲げられた教育方針や理念は実践的だ。クロステックやディープテックと呼ばれ、先鋭技術・要素技術の社会実装を伺うベンチャー企業にも欠かせない技術者像といえるだろう。

 同学部のウェブサイトでは「芸術工学=Design」と翻訳されており、アウトプットだけでなくプロセスにも関心が向かう。近年、デザインという言葉は意匠的な内容に限らず、英語本来の語義同様に、設計や創意工夫という意味合いも含めて使われることが多い。

 エヴィクサーの音響通信技術は、2012年頃からスマートフォンの普及と並走しつつも、その万能端末の機能が制限されるような環境下で提供機会を得てきた。たとえば、「映画の上映中に機内モードで」「数万人規模のスタジアムで輻輳(ふくそう)させずに」「非常時・災害時を想定してモバイル回線に頼らずに」「その部屋だけで、壁を通り抜けないように」といった通信ニーズへの対応だ。こういった掘り起こしには、検討初期段階からどうにかしてオピニオンリーダーやユーザーとの対話を実現することが必要不可欠であり、その要望に即応するだけの実装力が求められる。

 このようなプロセスは「インクルーシブ・デザイン」と呼ばれ、極端でも強いニーズを持つユーザーの意見を取り入れつつプロトタイプによる実証実験を取り付け、社会課題解決のインパクトから共感を得て、普遍的で日常的な価値を探る方法論が体系化されつつある。

 今後、多様化する価値観は人間に何層にも課題を与えるだろう。しかし、情報通信技術(ICT)に代表されるさまざまな技術の進歩とそれを生かそうとする「デザイン」により、点と点でしかないような専門同士を“かけ算”することで適合や解決ができると確信している。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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