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大阪IRを新型コロナが翻弄 事業者決定見通せず

 大阪府市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の計画が新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)されている。令和9年3月末まで、としていた開業時期について、松井一郎市長は「1~2年程度延期される」との見通しを表明。公募の事業者提案書の提出期限は当初の4月から当面延期となり、事業者決定の時期は見通せていない。

 府市は昨年12月、全国に先駆けIR事業者の公募を始めた。公募に応じたのは米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスによる共同グループ1事業者のみ。府市は、MGM側と協議を重ね、当初は6月に事業者を正式決定する計画だった。

 しかし、新型コロナの影響で、事業者選定の前提となる国の基本方針の策定が先送りとなったほか、日米の渡航制限でMGM側との打ち合わせも停滞。「当面の延期」を決定せざるを得なかった。

 2025年大阪・関西万博の会場と同じ人工島「夢洲(ゆめしま)」(大阪市此花区)が予定地のIRは、府市にとって大阪ベイエリア活性化の切り札だ。当初は相乗効果を狙い、万博前開業を条件に掲げていたが、工期に難色を示す事業者側に配慮。募集要項では、令和9年3月末まで遅らせた経緯がある。

 「大阪からの撤退は全く考えていないと事業者は言っている。ただ、少し時間を延ばしてほしいという連絡があった」。松井氏は6月の会見でこう強調した。

 開業時期はさらに1~2年遅れるとみられており、担当者は「企業経営への影響やコロナ後の観光需要などを踏まえ、計画をアップデートしたい」とする。府市は基本方針が公表され次第、開業までのスケジュールを再設定する方針だ。

 一方、MGMと共同で公募に臨むオリックスの井上亮社長は5月の決算説明会で「IRの基本的な方針に変更はない」としながらも「コロナの影響を検証する必要がある」と指摘した。

 投資縮小やインフラ整備遅れも…厳しい条件交渉に

 大阪府市はIR予定地の夢洲について、2025年大阪・関西万博後も「世界最高水準のエンターテインメント拠点」(松井一郎市長)としての発展を描く。投資規模は約1兆円で、年間7600億円の近畿圏への経済効果を見込むが、長引くコロナ禍により応募してきたIR事業者の業績は悪化。今後の交渉次第では事業規模の変更も予想される。

 募集要項などによると、大阪IRは6千人以上を収容する国際会議場や3千室以上の宿泊施設などを備えることが条件で、年間売り上げを4800億円、雇用創出効果を約8万人と試算。昨秋時点では事業者から1兆円規模の事業提案がなされた。

 だが、コロナ禍により府市の公募に応募した米MGMリゾーツ・インターナショナルは3~6月、米国ラスベガスのIR施設の営業を休止。1~3月期の売り上げは前年同期比29%減の約23億ドルに落ち込んだ。国際カジノ研究所の木曽崇所長は「コロナ前に期待した投資規模は縮小せざるを得ないのでは」と予測する。

 夢洲への鉄道整備計画にも不透明感が漂う。

 大阪メトロは、万博開幕前の令和6年度までに中央線を夢洲まで延伸する計画で、河井英明社長は「変更はない」との立場だが、IR誘致を前提に延伸計画を進める鉄道会社もある。関西経済連合会の松本正義会長は6月8日の記者会見で、IRの開業遅れによって「当然(インフラ整備に)影響が出るだろう」との見方を示している。

 今後事業者側との交渉をめぐり、府市は難しいかじ取りを迫られそうだ。

 松井氏は現時点で、夢洲への地下鉄延伸費の一部(約202億円)の負担を事業者に求める方針は変えていないが、「事業者の投資余力が落ちている。必要があれば(条件を)見直す」とする。

 木曽氏は「コロナ禍で条件変更もやむを得ない社会状況がつくられてしまった」と指摘。「唯一のパートナー候補を逃すわけにはいかない弱みがあり、府市にとっては厳しい交渉になるだろう」と話した。

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