高論卓説

SNSを過信するな 情報搾取やなりすまし日常茶飯事

 いわゆる「アラブの春」は2010年12月から12年まで北アフリカのアラブ諸国で連鎖的に起こった革命運動であるが、この革命運動はそれぞれの国において若い人々が中心となってフェイスブック、ツイッターなどのSNS(会員制交流サイト)を通じて仲間に呼びかけることにより、大衆運動として発展していったといわれている。(杉山仁)

 SNSは10年前から既に一国の世論を誘導できるほどの影響力を持っていたのである。現在では全世界でフェイスブックの加入者は26億人、ツイッターの加入者は3.3億人と推定されており、SNSの情報拡散力は既に既存メディアを上回っているといえよう。アメリカのトランプ大統領はSNSの情報発信力に目を付け、16年の大統領選と当選後に、ツイッターを最大限に活用し、既存メディアを飛び越えて有権者に直接訴えることにより、支持基盤を拡大したとされている。

 SNSの強力な情報拡散力は、特定の政治勢力が自国または多国の世論に影響を及ぼそうとする場合、利用されている。米ツイッター社は6月、中国、ロシア、トルコの3カ国の政府当局による世論誘導に関与し、社の規定に違反したと確認された計3万2242件のアカウントを削除したと発表した。このうち7割超の2万3750件が中国関連という。

 中国に関しては、香港問題や新型コロナウイルスの感染拡大について、中国共産党に好意的な内容を拡散する目的で投稿されていると指摘した。これに加えて、リツイートするための増幅器の役割を果たすアカウントも約15万件確認したという。

 先月には、アメリカでオバマ前米大統領やビル・ゲイツ氏ら多数の著名人のツイッターアカウントがハッカーにより乗っ取られる事件が発生した。このうち45件はパスワードがリセットされて仮想通貨詐欺などに悪用された。ハッカーは乗っ取りに成功したツイッターアカウントを通じてビットコインなどの仮想通貨を寄付目的で送金するよう促すツイートを流し、計1200万円相当を詐取したことが公表されている。著名人のツイートであるため、多くの人が簡単にだまされてしまった。ツイッター社の説明によると、ハッカーは少数の従業員をだまし、社内システムに侵入するための情報を盗んだということであるが、従業員から盗んだのか、あるいはもっと別な方法で社内システムに侵入したのかは不明である。8月に入り、本件の主犯とされるフロリダ州の男が当局により逮捕されたと報じられているが、事件の詳細は現時点では明らかになっていない。

 世論誘導やアカウント乗っ取りだけではなく、SNSの即時性を利用した、国家の諜報機関によるスパイ行為も既に10年ぐらい前から行われている。対象者個人のSNSの発信内容を盗聴することにより、盗聴対象者の行動や交友関係の詳細を把握する技術は、インテリジェンスの世界では標準ツールとなっており、世界各国の警察や治安当局も利用している。

 またツイッター社は7月下旬になってトランプ大統領の熱狂的な支持集団のアカウントを停止すると発表し、SNSのプラットフォーム自体が政争に巻き込まれている。このようにSNSは迅速で膨大な情報発信力を有するだけに、SNS加入者はSNS情報が自分の知らない所で利用されている可能性を認識すると同時に、SNS情報をそのまま信用しないことが安全である。

【プロフィル】杉山仁

 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大学卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会報告書」作成に有識者委員として参加。著書に「日本一わかりやすい海外M&A入門」のほか、M&Aと買収後経営に関する論文執筆や講演多数。

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