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スポーツ先進国に向けて望む 地域社会に根差すクラブの発展

 人口約10万人の米ウィスコンシン州グリーンベイ市にフランチャイズを置くNFL(ナショナル・フットボールリーグ)グリーンベイ・パッカーズは同国4大プロスポーツリーグの中で唯一のコミュニティーが所有するプロスポーツチームである。北米プロスポーツで最も小さな市場規模であるにもかかわらずNFLでも3番目に古いこのチームの資産価値は28億5000万ドルに達する。またドイツでは、人口約6000人の街に会員数約1000人で、28チームと9つのスポーツ施設を保持する総合型地域スポーツクラブがあるという。(帝京大学教授・川上祐司)

 この両者の共通点は企業のパートナーシップや財産ではなく広範なコミュニティーによるサポートと非営利構造にある。「見る」「する」「支える」を含めてこのようなスポーツチームが日本でも望まれる。多世代が多種目のスポーツを楽しめるよう地域住民が主体的に運営する総合型地域スポーツクラブは日本に約3600クラブある。

 コロナで活動中止に

 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くのクラブが活動中止を余儀なくされ、約25%のクラブが再開のめどが立っていない。その原因として多くのクラブが、地域の学校を含む公共施設を利用していることが挙げられる。また非営利経営への誤解によるマーケティングの希薄性。さらには、サッカーのみといったような単種目優先によるプログラム開発がある。コロナ禍の短い夏休みが終わったが、果たして地元の子供たちに行き場所があったのだろうか。今まさに総合型地域スポーツクラブの機能と価値が問われている。

 東京・八王子の北西部地区を中心に活動を続ける「アローレ八王子スポーツクラブ」(運営・NPO法人はちきたSC、紙本諭代表)という総合型地域スポーツクラブがある。都1部リーグに所属するサッカートップチームから幼少年スクール、バスケットボールスクール、チアダンス教室、シニア層向けのヨガ教室や健康トレーニング教室など多種目を多世代に展開する。

 2004年の設立で、クラブ会員数は約1400人に上る。テニスコート跡地を活用した自前の人工芝フィールドとクラブハウスが強みとなる。この夏には、敷地内の森林にキャンプ場をオープンした。都心から約1時間とは思えない大自然は炎天下の日中でも快適に過ごすことができる。今秋には敷地内に農園を開園する予定だ。実はこれらの施設は会員や地域住民たちがボランティアで整備したものであり、地元クラブへの愛着を肌で感じる。

 楽しく・安心・安全

 今夏、同クラブは小職研究室と共同で地元小学生を対象とした「楽しく・安心・安全に」を目的に普段では体験できないスポーツ種目を取り入れたサマースクールを開講して反響を呼んだ。クラブ内の自然環境の中、参加した子供たちの笑顔にスポーツの機能を顧みる。引き続き、当クラブでは、幼少期からこれら複数のスポーツ種目をシーズン制で実施するプログラムを開始する予定だ。

 昨今の日本では、サッカーや野球を中心とした単一種目クラブが散在する。さらに海外の人気クラブも加わる中で、子供争奪戦が繰り広げられているのが現状だ。その目的は実質的に「強化」のみにとどまり、スポンサーシップもメディアバリューに注力される。果たして地名を掲げるチームの優勝に街と人々は豊かになったのか。スポーツ先進国に向けては、地域社会に根付くスポーツクラブの発展が基盤となり、その重要性の理解が必要である。

【プロフィル】川上祐司

 かわかみ・ゆうじ 日体大卒。筑波大大学院修士課程スポーツシステム・健康マネジメント専攻修了。元アメリカンフットボール選手でオンワード時代に日本選手権(ライスボウル)優勝。富士通、筑波大大学院非常勤講師などを経て、2015年から帝京大経済学部でスポーツマネジメントに関する教鞭を執っている。著書に『アメリカのスポーツ現場に学ぶマーケティング戦略-ファン・チーム・行政が生み出すスポーツ文化とビジネス』(晃洋書房)など。55歳。大阪府出身。

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