道標

増えない国内の女性指導者 敗因分析し、労働市場の構造改革を

 安倍晋三前首相は、看板政策に女性活躍を掲げた。歴代首相と比べて女性活躍政策に積極的だったことは間違いない。成長戦略のど真ん中に据えたことも評価できる。ただ、残念ながら「果実」が見えるまでには至らなかった。

 政治や経済、教育、健康の4分野について男女格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数」(世界経済フォーラム)で、日本の順位は安倍政権下で下がり続けた。上位の健康、教育に対し、政治と経済が足を引っ張る。

 国会議員に占める女性の割合(二院制の場合は下院)が30%に達する欧州諸国に対し、日本の衆院は10.2%(2019年)。アジアの中で比べても低い。企業の課長級以上の割合は政府目標である30%の半分程度で、上場企業の役員は5.2%(19年、内閣府)と低迷する。

 安倍氏は、女性の就業率が70%に達したことを成果として挙げた。確かに、米国や経済協力開発機構(OECD)加盟国平均を上回った。ただ、それは多くの非正規労働者を含む数字だ。問題は、意思決定ができる「指導的立場」に女性がいないこと。菅政権がメスを入れなければならないのはここだ。

 上級職の少なさは男性との賃金格差を生む。就業率が伸びた一方、経済格差は是正されないままきてしまった。菅政権には、安倍政権が達成できなかった敗因をしっかり分析してほしい。現状がきちんと測れないと、明日の形は見えてこない。

 その際、期限は必ず設けるべきだ。政府が「20年に指導的立場における女性の割合を30%」とする目標を掲げたのは03年。17年も時間をかけた揚げ句、達成時期を先送りした。同じことを繰り返してはならない。

 指導的立場に女性が就けない理由はさまざまだが、一つは勤続年数が昇進や給与を左右し、キャリアパスが年功序列で決まる、日本の労働市場の構造にある。

 出産や子育てなど、女性は男性と比べてキャリアを中断せざるを得ない場面が多い。長時間労働が前提の“主流”の働き方にもついていけない。この構造を変えなければ女性は上へいけない。

 企業、社会を動かす際に鍵となるのは「経済合理性」だ。ありていに言うと「女性を登用し、多様性をマネジメントに生かす組織はもうかりまっせ」ということ。近年、投資家の立場から、女性や外国人、社外出身者の積極登用を求める動きが活発になっている。

 背景には、経営陣のダイバーシティー(多様性)が企業に利益をもたらすとの考え方がある。女性役員がいない場合は、株主総会で取締役選任議案への反対を推奨する投資会社も増えている。

 経営トップの中には、こうした市場の流れを理解している人も増えてはいる。一方で多様性推進を、企業の社会的責任(CSR)の枠でしか考えていない経営者もまだ大勢いる。女性登用をアリバイづくりのようにしている企業も多い。そうした企業を、この先待つのは“淘汰”だ。

 均一的な価値観や物の見方によってリスクが高まるのは、企業だけではない。高齢の男性が占める地方自治体の議会。多様性を無視した地域づくりをしている地方の町からは女性が逃げることが起こりかねない。その結果、子供が生まれず、過疎が進む。国のあちこちで淘汰は起こっており、日本自体が世界の中で取り残され始めている。時間切れは迫っている。

                   ◇

【プロフィル】村上由美子

 むらかみ・ゆみこ 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。国連職員、ゴールドマン・サックスのマネージングディレクターなどを経て2013年から現職。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus