講師のホンネ

立ち止まって「自分軸」を再確認

 私はエグゼクティブコーチの他に、企業の組織変革に携わる仕事もしている。企業理念を自分ごとにして、次世代を担うコア人材や管理職の意識を変えていく場を提供する仕事だ。いわゆるテキストに沿って進む研修ではなく、大まかな筋は縦糸として決めておくものの、参加者が醸し出す雰囲気や発言、質問内容などを横糸にして「場」を織り上げていく。ライブ感が満載なので、終了すると参加者も私も事務局もへとへとになる。

 そんな場で私がとても大切にしていることは「自分軸」を再確認していく作業である。「ここまで企業人として走ってきたが、自分を見失っていないか、本来自分が大切に思う価値観は、そして、そんな自分は、これからの企業人生でどんな風に活躍していきたいのか」などと立ち止まってグッと深く考えていただく。ここまで読むと「しんどそう」と思われるかもしれない。

 はい、しんどいです。ただ、自分の棚卸しを皆と一緒に取り組んだ後には、「ブレが戻った」「勇気が湧いてきた」「なぜこの会社に入ったのか、自分のリアルな原点を思い出した」「また走れる」などという声が多く聞かれるのも事実。そして副産物は、裸になり同じ釜の飯を食った者同士の一体感。しんどくても、自分という人間全部としっかり向き合い、価値観や信念、強みや弱み、将来像を言語化できていることが、チームや組織を引っ張っていく上での自信になり魅力となっていく。

 かく言う私も30代前半に大きな頭打ちを体験した。何をしにアメリカに来たのか、何が欲しくて生きているのかと、一人で迷い悩み、トンネルの先に光があることまで忘れそうになった。そんな時に友人が紹介してくれたのが「コーチのボブ」であった。初回セッション60分のうち、コーチが口を開いた時間は恐らく5分ほど。人生で初めて、自分の考えや気持ちを一切邪魔されず評価されずに話しきったパワフルな体験だった。

 それから数カ月間コーチとの対話を定期的に持つことで、私は暗いトンネルからはい出て、「人の人生に深く触れる仕事をしていく」と決めることができた。コーチのボブとの出会いから20年、「自分軸」は長続きするのである。(小林久美)

【プロフィル】小林久美

 こばやし・くみ プロフェッショナルコーチ。1965年、京都生まれ。15年に及ぶ米国生活の後帰国。ビズ・コミュニケーションズの人事部長として社員の意識改革に着手する中でコーチングに出合いプロコーチを目指す。現在は経営層のコーチのほか企業研修講師として活動中。国際コーチング連盟・プロフェッショナル認定コーチ。

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