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紙はデジタルに勝つ 「紙製文化財の町医者」に聞く紙資料の価値 (1/2ページ)

 【一聞百見】工房レストア社長・平田正和さんに聞く 

 古文書やびょうぶ絵から映画のポスター、賞状まであらゆる紙媒体の修理や修復を引き受ける工房レストア(大阪市)。「紙製文化財の町医者」を名乗る社長の平田正和さん(47)は、だれかが「残しておきたい」と思えるものは文化を伝える立派な地域史料になると言う。歴史と思い出が刻まれた紙々は、静かな工房で傷を癒やして持ち主の元へ帰る。(聞き手・粂博之)

 残したい気持ちお手伝い

 関西のある自治体から預かった古いびょうぶ。表面をはがすと、本来は使われないはずのくぎの頭が現れた。昔、だれかが補強のために使ったらしい。

 「ちょっと手荒な作業ですね。その場しのぎかもしれないが、後世に残すために良かれと思ってやったことでしょう」。平田さんは、絵を裏返しにして作業台に置き、霧吹きで軽く湿らせた。そうすると補強用に「裏打ち」された和紙の張り替えがしやすくなる。

 「古いものには『可逆性』がある。修繕しながら長く使うことを前提にした作りになっているんです」

 先人の知恵に従いながら、自分なりに工夫した道具も使っての作業。ただ、文化財などの場合、オリジナルを損なうような付け足しはタブーだ。例えば、絵の一部で色がはげ落ちていても塗り足したりはしない。古びた雰囲気はそのままに、展示や鑑賞に耐えられる状態にするのが、工房の仕事だ。

 オリジナルになじむ色合いの紙を漉(す)くため紙繊維の調合比率を記したレシピと見本、再利用するために取り置いた古い裏打ちの紙片、粘着力を調整するために10年以上発酵させた正麩(しょうふ)糊…。工房内には、さまざまなノウハウと材料が詰め込まれている。「持ち込まれるものは、それぞれ保管状況も状態も違っています。同じ手法がいつも通用するとはかぎらない」。作業のたびに反省点はある。しかし「想定外のことに対応しながら経験を積むことで腕は上がる」。

 平田さんがこの道に入ったのは19歳のとき。大学受験に失敗し、友人の親戚が経営する兵庫県尼崎市の表具店でアルバイトをしたのがきっかけだった。ふすまやびょうぶなどを扱う仕事。「半年で辞めるつもりだった」が、技術を覚えるうちに「これをゼロにするのはもったいない」と本腰を入れた。店には修復部門もできた。しかし、35歳のときに店は倒産。顧客を引き継ぐかたちで独立した。

 現在、工房のメンバーは平田さんを含め6人。自治体の文化財を扱う部署や博物館、社寺、企業などの依頼も受けるが、個人から思い出の品を修復したいとの相談も多い。「身近な資料を残しておきたいと考える人が増えている。そのお手伝いをしたい」

 紙は千年

 おじいさんの手記、若いころ研究のために作った地図、賞状、古い映画のポスター…。「紙製文化財の町医者」を標榜(ひょうぼう)する工房レストアには、さまざまな思い出の品が持ち込まれる。

 「修繕・修復したものをお渡しすると、涙を流して喜んでくれる人もいます」と平田さん。中には大切な遺品もあり「仏壇に飾っておきます」という依頼者もいるという。工房でファイルしている依頼主のアンケートには、依頼品の来歴や思い出、感謝の言葉が書き込まれている。

 身近な品々の修繕・修復依頼や問い合わせは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、少し増えてきたという。「自宅でいる時間が増えたせいか、思い出の品を整理するようになったのでは。ネットで修復について調べて、うちの工房を知ってくれたようです」

 紙の資料を残しておこう、傷んだ部分は修繕・修復すべきだ、という意識が高まったきっかけは平成7年の阪神大震災だろう、と平田さんは指摘する。この年に歴史学会や博物館の関係者、郷土史研究家などが集まってがれきに埋もれた地域資料の収集と修復に乗り出した。取り組みは全国に広がり、「歴史資料ネットワーク」(事務局・神戸大学)として活動が続いている。

 その後の東日本大震災や各地の震災、水害などでも、被害を受けたり散逸したりした資料の収集と修復は復旧作業の重要な一部となっている。保存、継承が必要なのは文化財や公的な資料に限らない。「例えば家族写真は、他人には何の意味もないように見えても、当人たちにとってはかけがえのないものです。思い出の本や色紙、レコードジャケットもそう。これらが集まって、地域の風俗と歴史を未来へと伝える大切な史料になる」

 工房では依頼者に一緒に作業をすることを勧める。補修用の紙を必要な大きさに切ったり、表具に使う布を選んだり。絵や文字がかかれた表面を補強する「裏打ち」作業を体験してもらうことも。作業が終わったあと、平田さんは依頼主に「しまっておかずに使ってください」と声をかける。

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