未来への羅針盤

治験データ管理、ITで効率化 ベンチャーが新薬開発を後押し

 世界中で感染拡大が続く新型コロナウイルス。治療薬やワクチンの開発に注目が集まるが、製薬会社では薬の有効性や安全性を確認するための臨床試験(治験)のデータ管理が大きな課題になっている。治験データのほとんどが紙で保管され、量も膨大。保管コストが大きな負担になっている。そんな課題を解決するのが医療系ITベンチャーのアガサ(東京都中央区)だ。同社が開発したクラウド基盤による治験文書管理システムは新薬の開発現場を支えている。

 クラウド基盤活用

 アガサの鎌倉千恵美社長は国家公務員を経て、日立製作所で医療分野のIT支援業務に従事した経験を持つ。十数年前の日立時代、仕事で訪れた医療機関で数十個の段ボール箱に入った治験に関する書類を整理しているのを目の当たりにした。

 「これこそ、ITが解決すべき分野だ」。そう感じた鎌倉氏は上司に報告すると、既にシステムは存在するが、価格は2億円以上。運用コストも年間数千万円もする。そのため、実際に導入しているのは一部の大手製薬会社に限られていた。

 やがて米ベンチャー企業のネクストドックスが5000万円で治験文書管理システムの販売を始めたのを知った。そこで、鎌倉氏は同社の社長のところに出向き、日本支社の設立を直談判。そして代表となった。

 ところがネクストドックスが買収され、日本支社の閉鎖と全従業員解雇という非情な通告を受ける。このとき、既に導入してくれた企業へのサポートのことが頭をよぎった。「神様が独立しろと背中を押している」と、起業を決意。解雇の通告から3カ月ほどたった2015年10月にアガサを設立した。

 既存のシステムは自前でサーバーを複数台そろえる必要がある上、大手の情報システム会社しか開発できず、高価なものにならざるを得なかった。だが、高速通信網がそれを変えた。インターネットを介するクラウド基盤が徐々に普及し、システムを独自に導入する必要がなくなった。アクセスやデータをやり取りする際の暗号化技術も進化し、システム導入に当たってのハードルが一気に低くなった。

 IT環境の進展を好機ととらえ、鎌倉氏と3人のシステム技術者がクラウドを使った治験文書管理システムの簡易版の開発に着手。会社設立から数カ月がたった16年に月額制によるクラウド型治験文書管理システムを登場させた。

 4500億円の市場

 今では多くの大学病院や医療機器メーカー、製薬会社が使う。昨年11月には、製薬会社約70社が加盟する日本製薬工業協会でも導入が決まり、利用企業の増加が期待される。今月10日には医療機関と製薬会社が治験に関する資料をウェブ上で共有できる機能を追加。紙でやり取りする必要がなくなった。

 日本では年間50種類前後の新薬が開発されており、開発額は1種類当たり平均300億円に上る。総額では約1兆5000億円が投じられている。このうち約3割が治験文書の作成や管理、保存といった事務作業が占めるという。計算上、治験分野のデジタル化は4500億円の市場と見込まれるが、これはコネクターなどの配線機器市場にほぼ匹敵する。

 こうした市場の潜在性に着目し、アガサには米セールスフォース・ドットコム系のセールスフォースベンチャーズ、モバイル・インターネットキャピタル(東京都千代田区)などの国内外のベンチャーキャピタルが出資している。(松村信仁)

【会社概要】アガサ

 ▽社長=鎌倉千恵美氏

 ▽本社=東京都中央区日本橋箱崎町1-2 FtFビル2F

 ▽設立=2015年10月2日

 ▽資本金=5億3500万円(資本準備金を含む)

 ▽年商=未公表

 ▽従業員数=24人

 ▽主な事業=クラウド基盤を活用した文書管理の電子化支援など

 ▽ミッション=新しい薬の研究開発をITで支援する

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