高論卓説

連合が「国民市民の目線」から遊離か 立民支援で組織内に大亀裂

 合流新党の立憲民主党は何とか誕生した。ところが積極的に後押しした労働組合の中央組織、連合は組織内に大きな亀裂を生む結果になってしまった。連合の神津里季生会長や相原康伸事務局長がいわば産婆(さんば)役を務め、旧立憲民主党と旧国民民主党は解散して改めて立憲民主党を結成することができた。(森一夫)

 しかし民間労組出身議員はこの合流新党とは違う道を選んだ。自治労や日教組などの官公労系の労組出身議員は合流新党の立民に参加した。民間労組出身議員は、電力総連と電機連合の4人が新たに結成された国民民主党に加わり、5人は無所属になった。連合は再結成した枝野幸男代表率いる立民に支持を一本化しようとしたが、民間の6つの主要産業別労働組合は同調しなかった。

 この中には神津会長の出身母体の基幹労連と相原事務局長の自動車総連も含まれる。ざっくり計算すると連合約700万人のうち、立民に距離を置く方が約6割を占める。結果的に官公労系と民間との労労間に、くさびを打つような形になった。

 原因は、立民中心の合流を支援した神津会長がことを急ぐあまり、「国民市民の目線」から遊離したためだろう。鉄鋼や造船などの労組を束ねる基幹労連が2016年春に組合員に政治意識を問うアンケートを実施した。結果は自民党支持が約23%で民進党(立民と国民の前身)の約18%を上回った。

 これについて神津会長は、定例記者会見で感想を求められてこう述べた。「連合の組合員は普通の国民市民の目線ですから、それこそ皆さんの報道の中身にも大きく意識は左右されます。そういう中でああいう結果になったということです」。連合本部は民主党に引き続き民進党を支持したが、「国民市民の目線」を持つ個々の組合員は必ずしも、そうではなかったわけだ。今もその構図は基本的に変わらない。民間の産別労組が立民に背を向ける背景に、このような組合員の意識がある。

 合流新党といっても、旧立憲民主党と名前も党首も同じ。おまけに旧国民や無所属からの合流組も含めて昔の民主党の元幹部が名を連ねる。「新たな船出という印象はほとんどない」(16日付日本経済新聞社説)と言われても仕方ない。

 変わった点は、より左翼化したことだ。枝野代表は共産党との選挙協力に前向きである。共産党は先の国会での首相指名選挙で、枝野氏の要請に応えて同氏に投票した。共産党の志位和夫委員長は「野党連合政権」樹立に意欲的だ。

 連合の神津会長は17日の記者会見で「共産党と政権をともにすることは立憲民主党もよもや考えていないはずだ」と言う。だが政権選択の総選挙で連携すれば、ただ事では済むまい。民間労組は、立民に対して「原発ゼロ」政策だけでなく、左傾化路線にも賛同できないだろう。

 立民は「大きな塊」になったというが、国民の支持は高まらない。こうした世論調査の結果に朝日新聞は「合流の効果は見られなかった」(18日デジタル版)という。左に寄れば寄るほど現実から遠ざかる。

 いかなる組織も「普通の国民市民の目線」を無視できない。連合は「全ての働く人のための運動」(神津会長)を自負するが、主力の民間労組にそっぽを向かれたら、「張子の虎」である。

【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は『日本の経営』(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。

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