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日本スタートアップ、海外進出に米VCが足掛かりに ネットワークで技術力発信

 日本のスタートアップ企業が、資金調達だけでなく海外進出の足掛かりとして米ベンチャーキャピタル(VC)を活用する例が増えている。技術力はあっても、創業間もないスタートアップにとって海外展開のハードルは高い。海外にも多くの投資先を持つ米VCの出資を受け入れれば、VCのグローバルネットワークを活用することも可能になる。海外展開を目指すスタートアップにとっては有力な手段となりそうだ。

 静脈認証&浸水予測

 「技術力では海外に負けていない。必要なのは世界レベルのマーケティング力で、ペガサスの強力なバックアップで世界と戦いたい」

 スマートフォンなどの端末カメラで静脈認証を実現したノルミー(東京都中央区)の岩田英三郎社長は、開発した世界初の技術の売り込みに自信を見せる。世界規模で投資先を抱えるペガサス・テック・ベンチャーズ(米シリコンバレー)からの出資を今春受け入れた。ペガサスから調達した2億7000万円は、海外展開のマーケティングを中心に投資していく。

 ノルミーの技術は世界11カ国で特許を取得。静脈と掌紋という複数の生体情報を同時に抽出し認証することができ、これまでの生体認証を上回る高セキュリティー・高精度を実現する。生体認証の国際規格「コモンクライテリア」認証も取得した。手をかざすだけの非接触型のため、新型コロナウイルスへの感染を懸念することなく使うことができる。

 コロナ禍で非接触へのニーズが高まる中、海外からも導入意向を示す企業がある。このため、韓国やフランス、インド、オーストラリアなど引き合いのある国・地域を中心に海外子会社を設立して海外パートナーや代理店を拡大していく考えだ。

 岩田氏は「海外にない技術でタッチレスの世界をつくる。世界基準を目指す」と意気込む。その実現に、投資先の海外展開支援を手掛けてきたペガサスのグローバルネットワークを活用する考えで、「認知度さえ向上すれば、数年後には数十億円規模の海外売り上げを見込める」と期待する。

 東大発人工知能(AI)開発のアリスマー(東京都港区)もペガサスからの出資を得た。テレビ局の報道番組で、危険をあらかじめ予測して運転事故を防ぐ「運転支援AIシステム」が紹介された。映像は世界約160カ国・地域で放送され、韓国やシンガポールなどの公共交通機関から「安全運転に活用できないか」といった問い合わせが届いた。

 同社は創業から4年だが、ドローンとAIで浸水被害を短時間で予測する「浸水予測AIシステム」など災害対応や企業の業務効率化、金融、医療など7領域でAIシステムを開発した。大田佳宏社長は「今までは無理といわれた社会課題の解決に挑戦してきた」と言い切る。

 技術力を評価して出資したペガサスのアニス・ウッザマン代表は「アリスマーは幅広い分野、業界に入り込んで経験値を積んでおり、世界で活躍できる」と太鼓判を押す。その上で「世界のトップ企業は最先端のAIエンジンを常に探しており、こうした企業との協業を支援できる」という。

 大田社長も「日本で成果を出してから輸出していくが、その時にはペガサスに欧米企業を紹介してもらう」と期待する。将来の海外展開を見据えて、海外の研究所で人材確保に乗り出すとともに、ペガサスのネットワークを通じて海外拠点を構えていく考えだ。

 今年100億円を投資

 ペガサスは米国や日本、東南アジアを中心に170社超のスタートアップに投資。このうち日本での投資は30社超に達し、ジーニーやマネーフォワードなど上場を果たした企業も出てきている。電動二輪・三輪車開発のテラモーターズには東南アジアを中心に有望ビジネパートナーを紹介、旅行サイト運営のエアトリの米支社設立も支援した。

 こうした実績を踏まえ、今年は日本のスタートアップの高い技術力を見込んで年間100億円投資を計画。既にノルミーやアリスマーなど5社に投資した。このうち海外展開を目指すスタートアップには「グローバルにつなげる」としており、積極的に成長支援を行う意向だ。(松岡健夫)

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