高論卓説

コロナよりはるかに怖い「差別」が起こる現実 ディープラーニングが未来を拓く

 ウィズコロナ時代 科学の知見結集せよ

 政府の緊急事態宣言が解除されたのは5月25日、それからはや5カ月がたとうとしている。にもかかわらず、「コロナは怖い」という社会の雰囲気は払拭されていない。それは、ワクチンが完成していないという事情だけではないように思う。

 病を得ることは、長い人生、何度もあることである。しかし、それによって誹謗(ひぼう)中傷されたり差別を受けたりする事態が、この日本で起こるとは夢にも思わなかった。COVID-19よりはるかに怖い差別が起こる現実、感染していない家族などまでが差別を受ける事態は、かつてのハンセン病に似ている。それに対して、政府が強い姿勢を見せていないことも問題である。政府は、国民の人権意識向上のためのプロジェクトを始動させるべきだ。

 「経済活動か、感染拡大防止か」という議論もかまびすしい。この二項対立には全て手探りの対応となっている。現状のままインフルエンザの流行もある冬を迎えれば、国民の心と家計の重しとなることは間違いない。経済活性化策と感染症対策の両立に向け、政府が分かりやすい未来の構想、ビジョンを示せば、人心はある程度、落ち着こう。

 「Go To トラベル」キャンペーンなどの政策は、いわば業界対策である。霞が関の官僚たちに任せておいても、所管の業界を守るアイデアは次々に出てくる。しかし、国民のもんもんとした心を変えるには、政治のリーダーシップが必要だ。ぜひ菅義偉首相の口から、経済社会全体を俯瞰したビジョンを聞きたい。

 そもそも人類は、それほど柔な動物ではない。イスラエルの文明史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、人類が地球を支配する存在になり得たのは、共同主観的現実、ハラリ氏の言い換えるところでは、虚構を信じる能力を持ったからだという。虚構とは、人類がこれまで築き上げてきた社会の全てのものであるといっても過言でない。経済も政治も宗教も、毎日使っているお金でさえ虚構である。それらを信じる人々の協力によって、この社会が維持されてきた。それにより人類は生きる確信を深め、さまざまな危機にも対処し得たというわけだ。

 その論を前提とすれば、COVID-19の出現はどれほどの脅威なのだろうか。人類は地球上の生物のなかでは、毒を持つもの、牙を持つものなどと比べ武装面で大きく見劣りする。猛獣の強襲から逃げ切れるスピードも持ち合わせていない。しかし危機を回避したり、やり過ごしたりする適切なアルゴリズム(手順)を身につけ生き延びてきた。この事態に、人類が新しいアルゴリズムを見つけ出せないはずはない。

 感染拡大前には、全ての課題を解決できるともてはやされていた人工知能(AI)が、このところ影を潜めている。その力をいま生かせないものか。感染者個々のプロファイルをベースに、ビックデータや各種の世論調査、経済、社会の状況を示す数値データなどを精査して入力していけば、COVID-19を過度に恐れることなく経済社会活動を行うためのいくつかの解が導き出されるのではないか。

 AIのディープラーニング(深層学習)には、感染症の専門家だけではなく自然科学全般、社会科学系のさまざまな分野の研究者、専門家の知見が必要となる。科学者、研究者、専門家はとかく自身の研究領域に籠もりがちだが、分野横断的な研究、学際的な研究に踏み込み、ウィズコロナ時代に人類が生き延びるアルゴリズムを見つけ出してほしい。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。明大講師。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策を専門とし、2003年公表の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年退職。東京都出身。

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