リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

ベクトル 長谷川創社長(1)「DtoC」に注力 目利き力など養う

 総合PR会社のベクトルが、PRを主体に顧客企業(クライアント)のコミュニケーション戦略を支援するためのサービスを拡充しながら、ダイレクトマーケティング(DtoC=ダイレクト・トゥ・コンシューマー)やメディア、プライバシー関連といった新規事業領域の継続的な開拓を進めている。目指すは「時代を先取る事業家集団」。そのために社内外からの人材抜擢(ばってき)とグループ42社への最適配置で起業家・経営者視点を持つ人材の育成に取り組む。長谷川創社長は「事業推進のエンジンは人。目利き力、実行力とスピードを磨き、企業と生活者の出会いを創るサービスを開発・提供する」と話す。

 ネット普及で変化

 --グループ42社(ベクトルを含む、2020年10月末時点)の事業領域は

 「主力のPR事業のほか、ニュース配信の『PR TIMES』によるプレスリリース配信事業、美容関連商品のダイレクト販売を手掛ける『ビタブリットジャパン』などによるダイレクトマーケティング事業などを展開している」

 「20年2月期の連結売上高は368億円(前期比24.0%増)、営業利益は28.9億円(12.3%増)だった。PR事業が主体とのイメージが強いが、売上高は179億円(7.4%増)で売上比率は48.7%。19年2月期が56.2%だったので初めて50%を切った」

 --規模の拡大とともにPR事業の売上比率は低下したのか

 「PR事業に本格的に乗り出した20年前は生活者が触れる情報は限定的で、テレビや新聞、雑誌、ラジオのマスメディアを使って情報を届けるBtoBのコミュニケーションだった。しかしインターネットの普及でPRの考え方が大きく変わり、デジタルデバイスを中心に生活者にダイレクトに情報を届けるBtoCに移行した」

 「PRのプロダクト(コミュニケーションツール)も時代の変化とともに新しいものが生まれ、結果的にPR事業を拡張させながら新規事業領域も広がっていった。当初はクライアントの情報を広めるためのコンテンツを作り、それをメディアでどう流通させるかを考えていたわけだが、それならばメディアも自社で持ってしまった方が期待に応えられると考えた。このようにPR会社の枠を越え事業会社としての展開を強化しており、スパイラル的に生まれたプロダクトをどう収益化していくかが課題だ」

 顧客生涯価値を重視

 --注力している事業領域は

 「PR事業を主力として時代に合うサービスを提供していくことで年10~15%成長は可能なのでそのまま伸ばす。その上でDtoC事業に注力し、売上比率を引き上げていく。この事業領域ではLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)の高いブランドを生み出すことを戦略方針としている。例えば、20歳で商品を購入してくれたお客さまが25歳になっても愛用してもらえるブランドづくりのように、そのお客さまのライフスタイルの変化にあわせて新商品を開発していく。この過程で顧客データを蓄積していくと5年後、10年後を見据えたクロスセールスが可能になり、勝ち筋が見えてくる」

 PR会社から事業創造企業へ転換

 --人材育成にも生かす

 「事業家育成装置としてのDtoC領域強化という側面もある。DtoCはビジネスモデルの特性上、商品設計の際に原価率をいかに下げるか、工場といかに折衝するか、在庫を減らすためにどう販売するかなどPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)を細かく見るようになり会計知識を習得できる。また、ブランドの世界観をうまく創出して商品を販売することが重要なビジネスなので、最新のマーケティング手法が自然と身に付き、インフルエンサーを活用するなどモノを売る工夫も凝らす。こういう視点を養うのにDtoCが最適な事業環境といえる」

 --DtoC事業以外では

 「メディア事業ではデジタルサイネージ。1万台以上の都内タクシーの後部座席にデジタルサイネージを設置しコンテンツを配信している。このモビリティーメディアに昨年参入した。ゲーム領域ではシンプルかつ簡単に楽しめるハイパーカジュアルゲームの広告との親和性の高さに着目し、今秋に進出した。さらに屋上広告、店舗内サイネージなどあらゆる『面』を生活者との接点ととらえインフラ整備を進めていく」

 --プライバシー関連事業は

 「改正される個人情報保護法への対応はもちろん、これからの時代における企業姿勢として問われるプライバシーへの対応を支援するプライバシーテックを展開する。時代の流れから個人情報の管理は間違いなく厳格化されていく。インターネットのCookie(閲覧履歴)の取り扱いに関する規制強化の問題もある。そこで今年3月、『PrivTech(プライブテック)』を合弁で立ち上げた。生活者の個人データを不要に取得せず、必要なときは利用に同意するCMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)という同意管理プラットフォームを企業に提供する」

 スピード緩めず

 --新型コロナウイルス感染拡大の影響は

 「非接触・非対面が求められ、当初はどのクライアントも広告・コミュニケーション活動をどこまで広げていいのか悩んでいた。しばらくは先行き不透明な状況が続くと思われるが、コロナ禍でも新しいプロダクトを考えるスピードは緩めない。グループ内の各子会社が発表したプレスリリースはこれまでより増加した」

 --コロナ禍でも心配していない

 「PR業界はもともと、不景気に強い。一瞬落ち込んでも不景気を乗り越えて成長する。不景気になるとモノを売る工夫を凝らすからだ。当社はバブル崩壊期の設立だが、2008年のリーマン・ショック後は大手企業がテレビCMなどマスメディアの広告予算を見直す中で、ウェブメディアなどを活用したコミュニケーションのデジタル化をいち早く進めてクライアントのニーズをつかんだ」

 「11年の東日本大震災後はSNS(会員制交流サイト)の急速な普及とあわせてソーシャルメディアマーケティングの波に乗り、PR視点でのSNSマーケティングを展開した。コロナ禍でも突破に向けてプロダクトを開発し、クライアントに提供する。新たな仕掛けづくりのチャンスととらえ、それを見つけて参入し突破する。われわれは変化に柔軟に対応できるグループであり、社員は目利き力と実行力を備え、スピードをもって展開できるのが強みだ」

 --現状を第2創業期と位置付けている

 「グループとして目指すのは『運命の出会いを、ヒトとモノとコトの間に』という世界観の下、企業が提供する商品・サービスと生活者の運命の出会いを創り出すこと。そのため幅広い領域でプロダクトを開発・提供する事業創造カンパニーを目指す。第2創業期としてグループ全体でエコシステム(生態系)、つまりPR事業を拡張させるとともに新たな事業に挑戦する。さらに、その事業を成長させる中で洗練されたサービスをクライアントに提供する。そしてシナジーを生み出すスタートアップなどに対するファイナンス支援も積極的に行っていく。このサイクルを生み出す」

 社外から人材も

 --そのために必要な人材の採用・育成は

 「新しい事業領域に挑戦できるのは優秀な若手が育ってきた証拠だ。事業を任せられる人材はまず社内から育て上げるが、事業立ち上げスピードが速くて足りない場合は社外から招く。この場合、狙う人材はビズデブ(事業開発)力、エンジニアリング知識、35~40歳。この年齢の人たちは仕事が最も波に乗り、体力もマネジメント経験もある。しかし、このまま社内に残って出世の道を選ぶのか、転職するのか、起業するのか悩んでいる。優秀な人材ほど起業したいが、家族の説得が難しい。給与はどうなるのか、起業資金はどうするのか不安が先に立つからだ」

 「こうしたタレント人材を招き入れる。真剣に考えている人材だからこそ、こちらも真剣に自ら会いに行って将来性を語り説得する。10%出資(90%はベクトル)を認めるので『自分の会社』という経営者・事業家意識で働くことができる。IPO(新規株式公開)を目指してもいい。実際、転職組は多いし、多くのグループ企業トップは社外から迎え入れたタレントだ」

【プロフィル】長谷川創

 はせがわ・はじめ 関西学院大卒。1995年郵政省(現日本郵政)入省。97年創業メンバーとして設立に参画したベクトル入社。2001年取締役。20年5月から社長。49歳。兵庫県出身。

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