主張

東証社長が辞任 危機対応の再構築を急げ

 東京証券取引所の10月のシステム障害に対し、金融庁が東証と、同社を傘下に置く日本取引所グループ(JPX)に業務改善命令を出した。

 これを受けて東証の宮原幸一郎社長が引責辞任した。全銘柄の終日売買停止という深刻な事態を起こし、市場に対する国内外の投資家の信頼を損ねた経営責任は極めて重い。

 JPXも清田瞭最高経営責任者(CEO)の報酬減額などの処分を行ったが、東証と併せて責任の所在を明確にしたのは当然だ。

 東証は過去にもシステム障害を繰り返してきた。それを理由とする業務改善命令も3度目だ。信頼回復は容易ではないだろうが、両社には、効果的な再発防止策を具体化するよう強く求めたい。

 発端は富士通が納入した機器の故障だ。故障時にバックアップ装置への切り替えが自動的に行われないという設定上のミスなどがあり、適切に対応できなかった。

 富士通の責任は、もちろん大きい。ただ、自動的に切り替えられないことに気づかず、5年間もこれを放置した東証の対応も、あまりにもずさんである。

 東証は「ネバーストップ」というスローガンを掲げて売買停止の回避を目指してきた。現実にはその自覚が著しく欠けていたといわざるを得ない。システム全体の点検をもっと徹底すべきである。

 もう一つの問題は売買再開に向けた対応の不備だ。東証はネバーストップを強調するばかりで、実際に売買が止まったとき、取引をいかに円滑に再開するかという観点での準備作業を怠っていた。

 終日にわたる売買停止となったのも、東証と証券各社の間で、未成立の注文の扱いといった取引再開時の取り決めを設けてこなかったことが大きな要因である。

 故障やサイバー攻撃など多くのリスクがあるITシステムに「絶対」はない。障害が起こり得ることを前提に危機対応を抜本的に再構築することが肝心だ。東証は証券会社などを含む協議会を設置し、ルール作りを始めている。あらゆる事態を想定し、システム障害の影響を最小限にするのに有効な手立てを確立してほしい。

 失った信頼の回復を果たせない限り、東証はアジアや世界の取引所間の競争で埋没しかねない。それが日本経済の存在感低下につながりかねないことを、東証とJPXは厳しく認識すべきだ。

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