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巨人は単なる「店子」 東京ドーム買収は朗報である

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 不動産最大手、三井不動産による東京ドームに対するTOB(株式公開買い付け)が11月末から始まった。1株当たり1300円、買収価格は約1200億円となる見通しで、来年1月18日までの期間で全株式の取得を目指す。

 この三井不動産による東京ドームを完全子会社計画は、野球ファンにとって朗報だといってもいい。というのも、同社は東京ドームを傘下に収めた後、株式の20%を読売巨人軍の親会社、読売新聞グループ本社に譲渡。一体となって再開発にあたるとしているからだ。

 巨人は単なる「店子」

 東京ドームは都心のJR水道橋や東京メトロ丸ノ内線・後楽園など5線3駅に囲まれた「東京ドームシティ」と呼ぶ約4万坪の敷地を保有。スタジアム、遊園地、ホテルなどを展開する。立地に恵まれ、今年は新型コロナウイルス感染拡大による巨人戦の集客減や遊園地休園に泣かされたが、最も成功したエンターテインメントゾーンだと小欄でも取り上げたことがある。

 ここに本拠を置く巨人は東京ドームの営業に大きな影響力を持つものの、実態は単なる「店子(たなこ)」に過ぎない。球界ナンバーワンのファン展開をしながら、本拠地スタジアムを保有するソフトバンクや阪神、DeNA、あるいは指定管理者となっている楽天、ロッテなどのようなスタジアム機能をフルに使った営業活動をとれないでいた。

 ソフトバンクに4連敗した今年の日本シリーズ。同時期、東京ドームでは都市対抗野球大会が開催されたため、主催試合は大阪の京セラドームを借りて実施しなければならなかった。もちろん、それが理由で負けたわけではないが、自前もしくは優先的に興行できるスタジアムを有しておれば精神的な負担は軽く済んでいただろう。

 原辰徳監督は、三井不動産のTOB計画を聞いてこう語る。「後楽園、東京ドームはわれわれにとってかけがえのない場所です。読売グループがお金を出してくれて自分たちのものに近づくのはありがたいことです」

 巨人は「プロ野球の盟主」を自認しながら、自前のスタジアムを持たない球団である。それはプロ野球草創期のスタジアムのあり方に起因していよう。

 自前球場に近づく

 日本野球機構(NPB)の前身、日本職業野球連盟が発足したのが1936年。東京六大学野球リーグの反対で明治神宮野球場が使用できず、急遽(きゅうきょ)、上井草球場(杉並区)や洲崎球場(深川区、現・江東区)が造られ試合を行った。しかし、交通の便は悪く、洲崎は東京湾の満潮時には浸水した。そこで図られたのが「都心に職業野球専用球場の新設」計画である。

 提唱したのは日本初の職業野球チーム、日本運動協会を創始した早稲田大学野球部出身の河野安通志。これに呼応し、出資に応じたのが読売新聞社長の正力松太郎、阪急電鉄社長の小林一三らである。ふたりはいうまでもなく新聞社と鉄道会社で構成された職業野球の生みの親。36年12月に後楽園スタヂアムが設立され、東京砲兵工廠跡地を取得し翌37年9月、後楽園球場が開場した。

 ちなみに工廠以前、この地には平岡熈が創設した汽車製造の平岡工場があった。平岡は明治の草創期に米国仕込みの野球を伝え、新橋アスレチックスという野球クラブを創設した人物。正力、小林、河野とともに野球殿堂に顕彰されている。

 戦前の職業野球は東の後楽園、西の甲子園を中心に各チームが集まって試合する形で発展。52年にフランチャイズ制導入まで、この形態が続いた。いやその後も後楽園は巨人のほか国鉄(現ヤクルト)や東急(現日本ハム)、毎日(現ロッテ)など5球団が本拠地として使用。88年に東京ドームとなった後も巨人と日本ハムが併用、巨人単独使用は2004年からである。

 この野球の聖地ともいうべき場所に、悲願の自前スタジアムに一歩近づいた読売新聞と読売巨人軍がどんな知恵を注ぎ込むのか。その持つ意義は大きい。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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