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「日本文化守りたい」 下関の老舗酒蔵を異業種が継承、遂に“伝統”初出荷

 太陽光発電システムなどを製造する「長州産業」(山口県山陽小野田市)が、廃業の危機にあった同県下関市の老舗酒蔵を引き継ぎ、先月11月、日本酒の出荷にこぎつけた。同社の岡本晋社長(50)は下関市役所に前田晋太郎市長を訪問し、初出荷を報告。「日本の文化を守りたい」と異業種に参入した岡本氏は「このお酒を日本全国、世界に届けたい」と意気込んでいる。(小沢慶太)

 150年余の歴史

 長州産業が事業を継承したのは150年余りの歴史を持つ児玉酒造。すでに醸造はやめ、ほかの蔵で造った酒を仕入れて、自社銘柄「長門菊川」を販売していた。

 岡本氏は3年ほど前、事業の多角化に向けてチョウザメの養殖に使う水源を探していたところ、敷地内から良質な井戸水が出る児玉酒造と出合った。初めて酒蔵に足を踏み入れたときのことを「日本酒の匂いが染みついていて、本当に蔵人の幽霊が出てきそうだった」と振り返る。

 酒造りの歴史を凝縮したような蔵のたたずまいに圧倒され、「この蔵を再生させて日本酒を造りたい」との思いが湧いてきた。長年地元に親しまれつつも継続が危ぶまれていた事業を引き継ぎ、新たに長州産業の子会社「長州酒造」を設立し、酒造りに乗り出した。

 当初は蔵の建屋や設備をそのまま使用したいと考えていたが、耐震・耐火基準を満たしていなかったことなどから断念。昨年12月に蔵を新設した。

 蔵には先端技術を導入。酒の仕込みは冬場に行うのが通常だが、空調や除湿設備を完備し、1年中酒造りができる環境を整えた。蔵で使う電力は主に屋根に取り付けた太陽光発電設備から賄う。

 反響大きく完売

 酒造りを担う杜氏(とうじ)には三重県出身の藤岡美樹氏(45)を迎えた。酒造設備メーカーから、大学卒業後20年ほど同県鈴鹿市などの酒蔵で働いてきた藤岡氏を紹介されたのがきっかけだった。

 藤岡氏は最初、「(下関には)行きません」と誘いを断っていたが、何度も話を聞くうちに「酒造りという伝統を残したい」という岡本氏の熱意が伝わった。「残りの人生を賭ける価値がある」と、昨年家族4人で下関に移住した。

 今年9月に始まった新酒の仕込みは苦労もあった。5月ごろから仕込みを始める予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期を余儀なくされた。

 蔵で働くのは未経験者2人を含む4人。蔵や設備が新しいだけに「新品由来の香りを(酒から)どう取り除くか」(藤岡氏)にも心を砕いた。藤岡氏は「蔵を立ち上げて最初の酒。とにかく丁寧に仕上げた」と語る。

 酒の銘柄は「天美」と名付けた。天(太陽)の恵みでできた美しい酒という意味を込めた。山口県産の酒米「山田錦」を使い、やや甘めだが、キレのある後味が特徴。アルコール度数も15度と若干低く、飲みやすい酒に仕上げた。試飲した前田市長は「すっきりしていて、すごくおいしい」と太鼓判を押した。

 初回の販売は720ミリリットルで1600円(税抜き)。2千本を製造し、全国の酒販店に出荷したが、反響が大きくすでに完売したという。11月25日には第2弾を出荷。天美のほか、長門菊川の銘柄も残していく考えだ。

 岡本氏は「(初出荷ができて)感無量。地元の太陽、水、米でできたお酒で地域を活性化していきたい」と話している。

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