--昨年1年間を振り返ると
「一昨年の今頃はまさかこんなときが来るとは思っていなかった。当社は社員が新型コロナウイルスで1人亡くなったこともあり、1カ月工事を止める決断をした。1カ月止めるのは大きなことで、工期を延ばせた工事は良かったが、工期が予定通りの工事では、急施工しなければならなくなった。一方、観光や鉄道、航空業界などからの発注は、新型コロナの影響で訪日客が途切れたためにピタッと止まった。海外の事業所では、感染防止を徹底しないと工事ができなかったり、日本に帰国したスタッフが戻れなかったりと、売り上げに占める海外事業の割合は小さいが、大きな影響が出た」
--観光業界からの発注は来年度も止まりそうだ
「北海道や京都のホテルなどの案件は、おそらくは出てこないだろう。商業施設の発注も少し止まっている。少なくとも上期中はだめだろう。とはいえ電子商取引(EC)が巣ごもり需要で伸びているので、物流施設はものすごく増えている。首都圏中心の大型再開発も、コロナ禍でも実際に発注を受ける段階に入ってきている」
--物流や再開発が新規発注を引っ張るのか
「物流施設は圏央道など高速道路のインターチェンジ付近に立地しているところは伸びてきているし、都心に小規模の施設を建てる事業者もいる。5年ほど前から物流施設は増えてきており、そろそろ飽和状態かと思っていたがまだ増えている。土地を手当てするのが大変なほどだ」
--政府は5カ年で15兆円の国土強靱(きょうじん)化計画を打ち出した
「土木部門ではだいぶ後押しされる。防災減災の観点から昔は不要とされていたダムが再び必要とされるようになってきている。(熊本県の)球磨川の川辺川ダムも調査が始まった。一方で国土インフラを作る上での環境破壊もあるので、そこは技術力で乗り越えていかなければならない」
--2021年度は業績は回復するか
「20年度は残念ながら減収減益で、21年度もV字回復の見込みは持っていない。前半は厳しいし、後半に急激に回復するとは思っていない。22年度に立ち直るとは思っている。21年度にどの程度回復するのか、そして回復してきた強さがどれぐらいなのかを見極めないとだめだと思う。再開発のほか、物流施設など大型の案件は結構ある。必要な技術開発をして競争力を高めていきたい」
【プロフィル】井上和幸 いのうえ・かずゆき 早大院修了。1981年清水建設入社。2013年執行役員、15年取締役専務執行役員名古屋支店長などを経て16年4月から現職。東京都出身。