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全固体電池の開発競争に熱 実用化急ぐトヨタ、中韓勢と対決

 次世代電池の開発競争が熱を帯びている。本命と目されるのは全固体電池。既存のリチウムイオン電池に比べて安全で、電池容量の大きさを示すエネルギー密度も高いのが特徴だ。幅広い機器への搭載が見込まれているが、特に電気自動車(EV)では1回の充電で走行できる距離が延びるなど、大きなメリットが期待されている。このため先行する日本を含め、世界各国の企業や研究機関が開発に力を入れている。

 EV1000キロ走行期待

 全固体電池は、主要部材の電解質が固体の材料でできているのが特徴だ。リチウムイオン電池は液体の電解質で満たされた正極と負極間の「水槽」をリチウムイオンが行き来することで電気を流し、充放電する。これに対し、全固体電池は電解質が固体なので液漏れや温度上昇による発火の恐れがほぼないとされる。小型化や低コスト化がしやすい長所も併せ持つ。作動する温度の範囲が広く、高速充電も可能。設計の自由度も高いといわれる。

 既に補聴器やワイヤレスイヤホンといった電力使用量が比較的少ない機器では採用が始まりつつあり、TDKや村田製作所といった電子部品メーカーが電池供給を拡大しようとしているが、用途として最も期待されているのが自動車だ。

 多くの現行EVの走行距離は300キロ程度だが、これを1000キロに延ばすことも可能といわれる。電池の小型化で車両重量も減らしたりできる。リチウムイオン電池は既に技術開発が進み、劇的な性能向上は難しいとみられているだけに、実用化への期待は大きい。

 中でもトヨタ自動車は開発に最も積極的で、関連特許の保有数で他社を大きく引き離している。同社は2017年10月の東京モーターショーで、20年代前半に全固体電池を搭載した自動車の商品化を目指すと表明。昨年4月には、パナソニックと車載用電池の開発会社「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ」を立ち上げ、全固体電池を柱の一つに位置付ける。

 トヨタは他にも次世代電池を開発しているが、「現時点では最も(自動車への搭載という意味で)実用化に近い」と話す。

 車載用電池はEVのコストの約3割を占め、走行距離などの性能を大きく左右するだけに、トヨタとしても開発で後れを取るわけにはいかない。

 日本は国別の関連特許でも他国をリードしている。

 ただ、現状では課題も多い。例えば電解質が固体だと、伝導率を高め、イオンを高速で行き来させるのが難しい。期待されているような性能の発揮や量産技術の確立を困難とみる経営者や研究者は少なからず存在する。

 「中国版テスラ」台頭

 それでもこの次世代電池への期待は大きく、国際的な開発競争は激しさを増している。

 今月9日、自動車業界に激震が走った。「中国版テスラ」と呼ばれるEVベンチャーの上海蔚来汽車(NIO)が、新型セダンとともに全固体電池とみられる大容量電池を発表し、22年3月から搭載を可能にすると表明した。詳細不明な部分が多く、電解質をゲル状にするなどした「半固体電池」だとする見方もあるが、発表は既に高値となっている同社の株価をさらに押し上げた。

 日本の自動車産業は、品質の高さや安全性などを強みに世界トップクラスの地位を築いてきたが、全固体電池の登場で競争のあり方が根底から覆され、その地位を海外勢に奪われる可能性も否定できない。

 既に半導体や液晶、スマートフォンでは日本の地位が大きく低下している。

 電池も優位性が揺らいでいる製品の一つ。リチウムイオン電池の開発では旭化成の吉野彰名誉フェローがノーベル化学賞を受賞し、商品化でも1991年にソニーが世界に先駆けた。だが、車載用電池で現在トップに立つのは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)。日本はパナソニックが2位につけてはいるものの、韓国勢にも押されているのが現状だ。従来の中国や韓国はコスト競争力を唯一最大の強みとしてきたが、近年は開発スピードや資金力でも日本を上回りつつある。

 このため日本政府は昨年12月、脱炭素化へのグリーン成長戦略に全固体電池の本格実用化を盛り込み、基本設計や新材料の検討などで官民の連携を強化する方針を打ち出した。

 自動車をめぐっては、日本政府が2030年代半ばに国内の新車を全てEVなどの電動車に切り替える目標を掲げているが、達成には電池技術の進歩が不可欠。脱炭素化のためにも、早期の実用化が期待される。(井田通人)

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