ガバナンス経営の最前線

(1)コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2020 大賞企業にキリンホールディングス

 大転換期に求められる決断

 経営者や社外取締役、機関投資家などで組織する日本取締役協会(会長・宮内義彦オリックスシニア・チェアマン)は、表彰制度「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2020」のグランドプライズカンパニー(大賞企業)にキリンホールディングスを、ウィナーカンパニー(入賞企業)にアドバンテストとテルモを選出、1月18日に東京・内幸町の帝国ホテルで表彰式を行った。近年、日本でもコーポレートガバナンス(企業統治)に関するルールや仕組みは整ってきたが、これら受賞企業はそれらの仕組みを企業価値向上の原動力とし、中長期的な成長を遂げてきた好例といえる。半面でルールにのっとり体制を整えただけ、という企業が圧倒的に多いという実態もある。おりしもコロナ禍で先行きの不透明感が増している。背中を押されるようにデジタル化も加速。経済社会は大転換期に差し掛かっている。アフターコロナを見据えた企業戦略の見直しは必至だ。こうした時代の企業のかじ取り、ガバナンスを考える。(青山博美)

 “形式”だけは整えたものの

 コーポレートガバナンスをめぐっては、2015年の会社法改正とコーポレートガバナンス・コード制定以来、毎年のように要件の強化などが進められてきた。これに合わせ、企業側も体制整備を続けてきた。2019年7月時点では、一部上場企業(同時点では2148社)のうち21.3%にあたる457社がコーポレートガバナンス・コードの全部で78ある原則のすべてをクリアしているほか、65.4%にあたる1404社が90%以上をクリア。同90%未満の企業は13.4%にとどまる。

 これだけ見ると大きく進んだ日本企業のコーポレートガバナンス。しかし、これはあくまでも社外取締役の人数や要件、各種の情報開示…といったコードにある原則を形式的にクリアしているにすぎない。これはいわばスタートなのだ。自社を改革し、中長期の健全な成長を実現するための仕組みとして機能させることを目指しているコーポレートガバナンス改革の趣旨からすると、形式を整え、それを改革に活用しなければ用を成さない。しかし、現状では体制を整えただけの企業が実に多い。

 この背景には、最高経営責任者(CEO)や社外取締役のガバナンス改革に対する意識の低さに加え、知識・認識が不足している実情も見えてきた。特に社外取締役はガバナンス改革を進展させる上で重要な役割を担うが、その肝心の社外取締役が自らの役割を認識していないとすればお粗末な話だ。

 こうした状況を憂う経済産業省は昨年7月、2019年の会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえつつ“社外取締役の役割・心得や具体的な行動”についてのベストプラクティスを提示した。ガバナンス改革の推進役であるはずのCEOや社外取締役の中には、こうした実務指針をレクチャーしなければならないという低レベルな人材も多いということらしい。株式を上場している企業のことだけに、ちょっと不安になる。

 ルール強化も機関設計に疑問

 一方で、機関設計の問題を指摘する声も強まっている。

 日本の企業は大半が“経営”と“執行”が一体化した監査役会設置会社だったが、その後の会社法改正で経営と執行を分けた欧米と同等の指名委員会等設置会社が登場する。ところが、この仕組みに移行した企業はソニーやオリックスなど少数にとどまり、日本企業の経営と執行の分離が進展することはなかった。

 こうした中で、14年の会社法改正では監査等委員会設置会社が登場。これは監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間に位置する機関設計を特徴とする。この“中途半端”な形態は日本の大企業に受け、現在では東証1部上場企業の約4分の1がこの形態に移行している。

 ただ、社外取締役で組織する指名委員会がCEOの選任や解任を決める指名委員会等設置会社に比べると経営者に対する改革推進や企業価値向上へのプレッシャーは弱い。このため、形式を整えつつ実質を伴わないガバナンス改革に業を煮やす改革派の経営者や投資家からは、その機関設計そのものを問題視する声も聞こえ始めている。

 先行き不透明 真の経営力不可欠

 今回のコーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2020の大賞に輝いたキリンホールディングスの受賞理由の中に、共有価値の創造(CSV)への取り組みが挙げられている。これは社会価値と経済価値の双方を創造する次世代の経営モデルだ。非財務分野の要素も含むものだが、企業に求められる社会的な要求が大きく変化していることを伺わせる。

 おりしも世界の経済社会はコロナ禍の中にある。先行きは史上稀にみる不透明感に包まれている。これまでのように、自社に最適な戦略を立案することは容易ではない。むしろ、当面は最適な戦略などない前提でどう事業を展開していくのかが問われかねない。情報を収集・分析するとともに、それらに基づきスピード感をもって事業展開するためには、これまで以上の判断力、経営力が問われることだろう。

 遅れ気味に進んできた日本企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)も、コロナ化で加速を余儀なくされている。

 稼ぐ力や企業価値をどう高めていくのか。そのためにはどう改革すればいいのか。「仏作って魂入れず」というが、いまこそ、形が整ったコーポレートガバナンスの仕組みに“魂”を入れる時ではないか。企業の先行きを決める有意な議論や経営者に対する前向きなプレッシャーが大転換期の中で停滞する日本企業に強く求められている。

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