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「子会社にライバル製品を売らせよう」年商4000億円企業アスクルを育てた経営判断 (2/3ページ)

 新規事業時代からみるアスクルの事例

 積極果敢に事業を推進していけば生じることになる、枠をはみ出す判断とは、どのようなものだろうか。枠をはみ出すことが、なぜ、いかに必要となるのだろうか。

 現在の国内のネット通販の一翼を担うアスクルは、枠をはみ出したことで大きな成長を遂げた事業である。アスクルの事業は、1993年に文具メーカーのプラスの新規事業としてスタートした。このアスクルというカタログ通販をプラスが開始したねらいは、プラス製品の販売網の拡充だった。

 アスクルは、スモールオフィスをターゲットに、紙のカタログを見てファクスなどで注文してもらう方法での通販事業を開始した。インターネットの一般利用がはじまると、ネット通販にも乗り出していく。

 文具の需要は、消費者向けよりも、事業者向けの方が大きい。だがこの事業者向けの販売ルートはその多くを業界最大手のコクヨによって押さえられており、プラスが食い込む余地は少なかった。コクヨの販売網がカバーしていない小規模事業所という市場のニッチに、カタログ通販方式でアプローチしようとしたのが、アスクルの出発点である。

 順調な拡大によって迫られた選択

 オフィス向けの文具の通販は、当時としては新規性の高い事業だった。そしてこれは、プラスという文具メーカーによる、文具小売という流通サービスへの進出であり、プラスにとっては枠をはみ出す事業だった。

 文具メーカーとしての事業の枠をはみ出すことになったことから、アスクルに問題が発生する。小売サービスとしてのアスクルの事業は順調に拡大していった。ところがそうなると、顧客からは、品ぞろえの拡大が求められる。顧客は「文具以外の品ぞろえも充実してほしい」「プラス以外の商品も欲しい」と希望する。

 しかし、この希望に対応することは、プラス以外の製品、場合によっては競合他社の製品の取り使いを充実させることにつながっていく。プラス製品の販売網の拡充という目的とは相いれない方向に踏み出すことを迫られる。

 伸び盛りの新事業の成長を優先

 プラスにとって必要なのは、小売サービスとしてのアスクルの事業が拡大か。プラス製品の販売網の拡充か。いずれの目標を優先し、どのように対応していくか。

 プラスの経営陣は、伸び盛りの小売サービスであるアスクルの事業を拡大することを選択した。自社製品の販売網を拡充することも大切だが、顧客が欲しがる品物をそろえ、アスクルの事業の成長を導くことの優先順位が高いと判断したのである。そのためにアスクルでは他社製品の取り扱いをはじめるとともに、1997年にはプラスから分社化し、独立性を高めた。

 その結果アスクルの売り上げは、大きく成長する。1996年には56億円だったアスクルの売り上げは、3年後の1999年には471億円となる。

 「この事業が目指すべき成功とは何なのか」

 アスクルは、当初の目標であったプラス製品の販売網の拡充を、企業グループ全体としての成長という目標に切り替えたことで、事業機会をつかむ。現在のアスクルの売り上げは4000億円を超える。アスクルがプラス製品の通販という当初の役割に徹していれば、現在に至る大きな成長は生まれなかったはずである。

 このような事業の目標の切り替えには軋轢(あつれき)が伴う。各事業部門にはその時々において定められた目標がある。プラスの文具のマーケティングにかかわる各部門や担当者は、他社との競争に日々しのぎを削っている。「他社の競合製品も扱うとは、いったいどういうことか」とねじ込んでくるかもしれない。

 ここで必要となるのは、「この事業が目指すべき成功とは何なのか」という事業の存在意義をめぐる、より上位の目標に立ち返っての検討である。プラスのアスクル事業についていえば、自社製品の販売網の拡充より企業グループとしてのより大きな成長の方が重要だという経営判断がなければ、他社製品の取り扱いを充実させることは難しい。

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