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「子会社にライバル製品を売らせよう」年商4000億円企業アスクルを育てた経営判断 (3/3ページ)

 中間層マネジャーの抱える困難

 こうしたより上位の経営判断を担うのは、企業のトップマネジメント層である。企業のトップマネジメント層は、組織の全体としての成功という観点から、各部門の目標を変更する判断を下すことができる。

 中間層のマネジャーの立場は難しい。組織が定めた部門の目標の達成に邁進しなければならない立場で、目標変更を上層部に掛け合うのは、自身の評価を高めるうえでは非効率かもしれない。アスクルのカタログ制作を担当するマネジャーが業績評価を高めるためには、分社化を上司に発案する前にやるべきことはいくらでもある。部門の目標変更が必要となるような部下のイノベーションの発案があったとき、「封印しておく方がリスクは少ない」と中間マネジャーが考えるのはある意味当然だといえる。

 起業家精神を潰さない組織のあり方

 組織の大きな成長や効率化を生むイノベーションを思いつく機会は、トップや中間マネジメント層であろうと、スタッフ層であろうと平等にある。ならば、スタッフ層からの発案や行動を、事業部門の当座の目標に執着するあまり、中間マネジメント層が潰してしまうことのないようにするべきである。

 とはいえ先に論じたような、企業の中間マネジメント層が置かれている立場を考えると、中間マネジメント層に意識改革を求めるだけでは、状況の大きな改善は望めない。では、どうするか。組織の取り組みとしては、以下のような対応が考えられる。

 1.起業家的文化の醸成

 トップマネジメント層にとっては、部門の目標変更を伴うプランを上奏してくる中間マネジャーは面倒な存在かもしれない。しかし、だからこそ、こうした上奏を日頃より推奨し、その面倒さに向き合うことをほめそやす雰囲気を、組織のなかに培っておくことが重要である。中間マネジメント層からの面倒な上奏にトップマネジメント層が喜んで対応する姿勢が、イノベーションの芽を潰してしまわない企業文化の醸成につながる。

 2.中間マネジャーの経営目線の向上

 中間マネジャーは、将来の経営のトップマネジメントを担う候補生である。担当部門の当面の課題を超えるより大きな自社の経営目標について、日頃から議論し考える、意見交換の場をもつべきである。こうした議論を日常的に行っている中間マネジャーであれば、スタッフの起業家精神を潰してしまうような判断は減少するだろう。

 3.社内提案会の開催

 部門の目標から外れるような新規事業や業務改善の発案を受け止めるために、社内提案会などの場を定期的に用意する。この提案会では、トップマネジメント層が審査の中心を担い、部門の目標に縛られがちな中間マネジャー層に判断をまかせることで、せっかくの起案が潰されてしまうことのない回路を用意する。

 4.新規プロジェクトのトップ直結化

 自社のイノベーションにつながることが期待される新規性が高いプロジェクトについては、トップマネジメント層の直轄としたり、アドバイザーやメンターとしてトップマネジメント層がついたりするようにする。企業の全体としての目標や成功という、より大きな観点からの判断を行うことができるトップマネジメント層に、情報が上がる回路を用意しておく。

 

 栗木 契(くりき・けい)

 神戸大学大学院経営学研究科教授

 1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

 

 (神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)(PRESIDENT Online)

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