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コロナ禍「ホテルで暮らす」 長期滞在プラン、新規顧客開拓

 宿泊関連業界が、1週間や1カ月単位の長期滞在プランを相次いで打ち出している。新型コロナウイルス禍で訪日客や出張客の低迷が続くなか、「ホテルに暮らす」という新たな使い方で、新規顧客を開拓する戦略だ。帝国ホテルなどは、テレワークの普及を機に、企業の経営層などをターゲットに仕事場としての客室利用も提案する。ホテルにとっては、1泊あたりの客単価は下がるものの、客室稼働率を向上させて経費を圧縮し、安定収入と設備維持につなげられる。コロナ終息後は、利幅の大きい旅行客を再び迎え入れられる。

 「どれぐらいお客さまの需要があるか心配でしたが、即日完売でした」

 帝国ホテル東京(東京都千代田区)は2月1日、1カ月単位で割安に長期滞在できる宿泊プラン「サービスアパートメント」の受け付けを開始したところ、その日のうちに予約がいっぱいとなった。多くが1カ月滞在を予約したという。改装工事などで開始は3月15日から。7月15日までの期間限定だが、延長も検討中だ。

 定額サービス提供

 タワー館の99部屋が対象で、富裕層や企業の経営層の利用を狙い、30平方メートルの部屋の価格は30泊36万円、滞在は2人まで。1泊3万円で最低5泊から利用できる。タワー館の3フロアの一部を改装し、洗濯乾燥機や電子レンジを備えた共同利用スペースを新設する。

 生活に必要なサービスを定額制で提供するのが特徴で、専用メニューのルームサービスの食事が30日で6万円、シャツなどの洗濯サービスが同3万円で受けられる。

 帝国ホテルによると、今回の宿泊プランは「ホテルに暮らすように滞在する」ことがテーマだが、旅館業法に基づくサービスのため、通常の宿泊と同様の手続きで予約可能という。

 同社は最初の緊急事態宣言が発令された昨年春以降、宿泊客の減少が長期化するとみて新たな需要発掘へ新サービスの検討を始めた。政府の観光支援事業「Go To トラベル」効果で一時的な需要回復はあったものの、年明けから2度目の宣言が出ると、ホテル内にあるレストランの時短営業なども重なり収益が悪化。そんな中、テレワークの普及を受けホテルの客室を第2のオフィスとして使ったり、富裕層が客室を都心の生活拠点としたりするニーズを見越し、長期滞在プランを打ち出した。

 これまでも、ホテルを長期滞在の場として利用している客層は、著名人や富裕層を中心に一定程度存在していた。仕事柄移動する機会が多い芸能人やスポーツ選手、静かな環境で執筆に集中したい作家らが“上得意”でホテル暮らしを送り、ホテルならではの洗練されたサービスや気ままな生活にあこがれる人も少なくない。

 一方、20~30代の若い世代の需要に応える定額制のホテル長期滞在を提案する専用サイトの人気も高まっており、ホテル事業者にとっては新たな商機となっている。

 定額制のホテル長期滞在プランを提案する予約サイト「goodroom(グッドルーム)ホテルパス」では、全国の宿泊施設と提携し、月額6万9800円から予約を受け付けている。サイトの運営会社によると、宿泊客は基本料(月額6万9800円~)と、水道光熱費1日300円などの追加料金を同社に支払えば、希望する宿泊施設を利用できる。宿泊施設によって基本料は異なるが、8万~9万円程度のホテルの人気が高いという。

 このサービスは昨年6月に開始し、提携するホテルは全国約300施設に上る。利用者の45%が2カ月以上の長期滞在だ。

 安定収入を確保

 ホテル側は、宿泊客がサイト運営会社に支払う利用料から手数料を差し引いた分を受け取る。利用料は通常の宿泊価格より割安となるが、安定収入を確保できる。

 また客室の清掃頻度は1~2週間に1度となっており、通常毎日行う清掃回数が減る。利用者も清掃はその程度で十分という人も多く、需給が合致する。客室の稼働率予測が立てやすくなるので、清掃員の手配も楽になる。人手不足と人件費という経営課題の解決にもつながる。

 電子レンジや共用の洗濯乾燥機など、備え付けの電化製品はホテルによって異なるが、宿泊施設のセキュリティー対策やインターネットの通信環境が整っていることも利用者のニーズに即しているようだ。キッチンが備え付けられていない客室もあるが、仕事に集中したい若い利用者の間では、もともと自炊をしないため問題にならないという。

 都内で働くある利用者は、「賃貸住宅に住むよりも家賃、光熱費、通信費などを合わせた生活費全体の負担が軽くなった」と話している。

 ホテルパスで長期滞在の宿泊予約を受け付けている東急ステイでは、全国28施設で昨年秋から7泊8日以上の長期滞在プランを提供している。今年2月は稼働中の客室のうち長期滞在の割合が昨年10月と比べ7~8倍に増加したという。運営する東急不動産の担当者は「長期滞在のニーズが広がっている」と話す。

 コロナ禍を生き残るアイデアがコロナ終息後も「新たな生活様式」として定着し、これまでと異なる宿泊需要に成長する可能性がある。(岡田美月)

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