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微小金属らせんとテラヘルツ光の相互作用可視化/新型コロナ感染の分子機構解明

 理化学研究所 光量子工学研究センター テラヘルツ光源研究チーム研究員・野竹孝志

 微小金属らせんとテラヘルツ光との相互作用を可視化

 周波数が1テラヘルツ(電場と磁場が1秒間に1兆回振動)程度の電磁波を「テラヘルツ光」といいます。近年、テラヘルツ光独自の特性を利用した新しいイメージングやセンシング、分光応用が実現しつつあります。また、次世代の超高速移動通信規格(6G)における重要な電磁波資源でもあり、テラヘルツ光を発生・検出・制御するためのさまざまな光・電子デバイスの開発競争が世界中で加速しています。

 今回、理研、同志社大、京都大の共同研究グループは、藻類の一種でらせん構造を持つ「スピルリナ」を鋳型として金属メッキすることで、長さ約0.1ミリメートル、直径約0.03ミリメートル、線径約0.007ミリメートルの微小ならせん構造を作製しました。この微小金属らせん構造とテラヘルツ光との相互作用を、テラヘルツ近接場顕微鏡を用いて調べました。その結果、特定の方向へ異なる周波数のテラヘルツ光が再放射される様子を、回折限界を超えたテラヘルツ光波長の10分の1程度の空間分解能とフェムト秒(100兆分の1秒)の時間分解能で、リアルタイムに可視化することに成功しました。

 通信における情報の伝送速度は周波数帯域で決まりますが、今回観測に成功した微小金属らせん構造からのテラヘルツ光放射の帯域は、1テラヘルツ以上あることが分かっています。これは、現在の最先端5G通信規格で使われている帯域の約1万倍であり、6Gなどにおける超広帯域アンテナとして応用が期待できます。

【プロフィル】野竹孝志

 のたけ・たかし 愛知県豊田市出身。名古屋大学大学院工学研究科エネルギー理工学専攻博士後期課程終了、博士(工学)。自然科学研究機構核融合科学研究所COE研究員等を経て、2009年より現職。

 ■コメント=最近は、テラヘルツ光子を使って“シュレーディンガーの猫”状態を生成することに挑戦中。

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 理化学研究所 開拓研究本部 杉田理論分子科学研究室 専任研究員・森貴治

 新型コロナウイルス感染の分子機構を解明

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染の初期段階では、ウイルスの表面に存在する「スパイクタンパク質」がヒト細胞表面のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2受容体)に結合して吸着し、ウイルスがヒト細胞に侵入します。スパイクタンパク質はN端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、S2ドメインから構成され、その表面に存在するアミノ酸の多くは「糖鎖」によって修飾されています。

 RBDには、「ダウン型構造」と「アップ型構造」が存在し、ヒト細胞への侵入過程、RBDはアップ型構造をとっていることが知られている一方で、糖鎖がどのような役割を果たしているのかは分かっていませんでした。

 今回、理研の研究チームは、理研のスーパーコンピュータ「富岳」と東京大学と筑波大学が共同運営する「Oakforest-PACS」を用いて、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の分子動力学シミュレーションを行いました。その結果、ダウン型構造とアップ型構造の両方において、スパイクタンパク質の表面を修飾している糖鎖が“補強役”となってRBDを安定化していることを発見し、RBD間の静電的な反発が駆動力となり、アップ型への構造変化が誘起されるという分子メカニズムを明らかにしました。

 本研究成果は、新型コロナウイルス感染症COVID-19に対する感染予防や治療に向けた医薬品の分子設計に貢献すると期待できます。

【プロフィル】森貴治

 もり・たかはる 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2019年4月から現職。

 ■コメント=スーパーコンピュータを用いたシミュレーション研究で社会の発展に貢献したい。

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 ■「理研よこはまサイエンスカフェ」をオンラインで開催

 理化学研究所(理研)横浜キャンパスでは、高校生および一般の方を対象としたサイエンスカフェを26日にZoomによるオンライン形式で開催する。

 サイエンスカフェとは、理研の研究者と市民の方々が飲み物を片手に、気軽に科学の話題を話し合う、講演会でもシンポジウムでもない新しいスタイルのイベント。今回は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにオンラインで行う。私たちの身体を構成する分子。顕微鏡でも見えないほど小さな存在である分子の動き、振る舞い、生命の機能を果たすための役割などについて、昨今医療の分野で注目されている多剤耐性の問題にも触れながら、理研 医科学イノベーションハブ推進プログラムの山根努上級研究員と横浜市立大学大学院 生命医科学研究科の木寺詔紀特任教授の2人がわかりやすく解説し、参加者と質疑応答を行う(事前申し込み制)。

 【日 時】3月26日(金) 午後6~7時

 【対 象】高校生、一般

 【視聴方法】Zoomによるオンライン配信

 【定 員】50人(応募多数の場合は抽選)

 【参加費】無料

 【詳 細】https://www.yokohama.riken.jp/sciencecafe/sciencecafe_210326.html

 【問い合わせ】理化学研究所横浜事業所 yscafe@riken.jp

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