テクノロジー

韓国にも敗れた「日の丸半導体」が、世界一に返り咲く意外なシナリオ (2/2ページ)

 米中の覇権争いで「漁夫の利」を得る国

 となると米国にとって中国への対抗策はある意味単純だ。米国製の半導体技術に禁輸措置をかけて、中国企業が使えないようにすればいいだけだ。実際、米国政府はそれを実行に移して、既にかなりの効果が現れ始めている。

 では今回、ここから漁夫の利を得るのは、どの国になるだろうか?

 それはおそらく日本である。

 2期連続で世界ランキング4冠を達成したスパコン富岳が、まさにそれを示している。富岳の開発プロジェクトが正式に始まって以来、理研をはじめ富岳の関係者は「ベンチマーク・テストで1位になることが目標ではない。社会の役に立つスパコンを作ることが本来の目標だ」と言い続けてきた。

 とはいえ、世界1位が獲れるなら、それに越したことはない。

 この業界では日米中など競合する国の間で「腹の探り合い」というか、要するに相手の技術力が今、どのレベルにあって、いつごろ次世代機が完成しそうかなどのインサイダー情報を互いによく調べている。

 おそらく理研・富士通など富岳関係者は、2017年にトランプ政権が誕生し、やがて米中間の貿易摩擦がハイテク覇権争いへと発展する19年頃には、その影響で両国の次世代スパコン開発が予定よりも遅れそうだ、という情報を掴んでいたはずだ。

 当初の計画では富岳は21年に稼働を開始する予定だった。しかし米中のエクサ級スパコンの完成が遅れるという情報を握ったことで、富岳関係者は「今がチャンスだ!」とばかりにあえて前倒しで20年に稼働させて、ずっと「目標ではない」と言い続けてきた1位を獲りにいったのではないか。

「世界一」の大きな意味

 仮にそうだとすれば、その策は見事に功を奏し、富岳は2期連続でスパコン世界一となったわけだが、この王座はもうしばらく続きそうだ。米中どちらが先にエクサ級マシンを完成させるにせよ、それは早くて22年、下手をすれば23年にずれこむとの見方もある。となると、富岳は最長3年間も世界王座に君臨し続ける可能性があるのだ。

 もちろん「スパコンのベンチマーク・テストで1位になることに実質的な意味がどれほどあるのか?」という冷めた意見も聞かれるだろう。しかし、それでも富岳の世界ナンバーワンは高く評価されるべきだと筆者は思う。ここ数年、米国のGAFAや勃興する中国の巨大IT企業などに押され、日本のハイテク産業は一種の自信喪失に近い状態にあった。特にAIや5Gなど先端的な技術分野では、日本企業はすっかり存在感を失ってしまった。

 こうした状況下で「国力を反映する」スパコンの性能で世界一に返り咲いたことは、日本の科学技術力の底力を証明し、失いかけていた自信を取り戻す上で大きな意味があったと言えるのではないか。

 しかも、この流れはスパコン開発だけに止まらない。『「スパコン富岳」後の日本 科学技術立国は復活できるのか』の第2章でも紹介しているように、富岳のCPUに採用されたSIMDなど日本の伝統的な半導体テクノロジーが蘇りつつある。

 今後はこうした基礎的な高度技術を、爆発的な需要増加が期待されるクラウド・サーバー、さらにはIoT端末や自動運転車など次世代製品に広げていくことで、ハイテク・ジャパンの復活は単なる希望的観測ではなくなってきた。

日本の存在感を高めるチャンスだ

 こうした中で海外に目を転じると、米国では司法省やFTC(連邦取引委員会)、各州政府などが20年10月以降、反トラスト法(米国の独占禁止法)に抵触した疑いでグーグルやフェイスブックを提訴。今後はアップルやアマゾンなども含め、これら巨大IT企業の事業を分割するなどして絶大な市場独占力を奪い、代わって未来を担う新しい企業が勃興する環境を整えることが狙いと見られている。

 かつて1998年に始まるマイクロソフトの反トラスト法訴訟を経て同社が力を落とし、これに代わってアマゾンやグーグルなど当時の新興企業が台頭してきたのと同様、現在もまたきわめて大きなスケールで主力企業の世代交代が迫っているのかもしれない。

 一方、中国では20年11月、アリババ集団創業者ジャック・マー氏の政府批判が共産党指導者の逆鱗に触れ、傘下の金融会社アントグループが上海・香港市場で上場停止となった。

 同社に対しては、取引先の企業にライバル企業と取り引きしないよう求める行為が独占禁止法違反の疑いがあるとして、中国当局による捜査も進んでいる。

 今後、テンセントや百度など他のインターネット企業にも、規制当局による統制が及ぶとの見方もある。米国同様、中国でも巨大IT企業に激しい逆風が吹き始めているようだ。

 もちろんGAFAやファーウェイ、アリババなど、外国企業のトラブルを歓迎するのは決して褒められた姿勢ではないし、ここで強調したいのはそういうことではない。あくまで一般論として、どこかの国の企業が国際競争力を落とせば、他の国の企業は相対的な優位性を確保できるということだ。バブル崩壊後の90年代とは逆に、今度は日本企業が世界のハイテク市場で存在感を高めるチャンスがめぐってきたと言えそうだ。(作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授 小林 雅一)

 小林 雅一(こばやし・まさかず)

 作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授

 1963年、群馬県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科・修士課程を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミュニケーションの修士号を取得。ニューヨークで新聞社勤務、帰国後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。

 (PRESIDENT Online)

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