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小型原子炉開発、世界で加速高い安全性 脱炭素化の切り札に

 小型原子炉の開発競争が熱を帯びている。小型原子炉は既存の原子力発電と同様に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を排出しない上、安全性や経済性の面でも優れているとされる。太陽光発電などの再生可能エネルギーだけでは温室効果ガスの排出削減に限界があるとされる中、「脱炭素化」の切り札になると期待されており、16日に予定される日米首脳会談でも開発協力がテーマとなる見通しだ。

 炉の冷却しやすく

 小型原子炉は、小型モジュール炉(SMR=スモール・モジュラー・リアクター)とも呼ばれる。既存の原発で主流の軽水炉は大型化が進み、1基当たりの出力が100万キロワット以上が主流なのに対し、数万~数十万キロワットと小さいが、原子炉の容積に対する表面積が大きく、原子炉を冷却しやすいのが特徴だ。

 プレハブ住宅のように、主要機器を事前に工場で製造してから現地で据え付けるため、初期投資抑制や工期短縮が可能。建設費が1兆円を超えることも珍しくない軽水炉に対し、数分の一で済む可能性がある。安定的に発電できるため、天候に発電量が左右されがちな再生可能エネルギーを補うと期待されるほか、比較的狭い地域ごとに発電所が散在する形が想定されており、万一の事故の影響も少ないとされる。

 実用化に向けて、日本を含む各国の企業が開発に取り組んでいる。日立製作所は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社「日立GEニュークリア・エナジー」(茨城県日立市)で出力30万キロワットの小型原子炉を開発中。北米で2030年ごろの実用化を目指している。「異常時でも外部電源と運転操作を必要とせずに炉心を冷却できる」(日立)のが特徴で、原子炉を地中に埋めるため、より冷やしやすく、テロからの防護にも優れているという。

 東芝は、冷却材に液体ナトリウムを使う高速炉など2種類を開発。三菱重工業が開発中の小型原子炉は、蒸気発生器や加圧器といった主要機器を原子炉容器内に統合することで小型化を可能にする。

 小型原子炉の開発は海外でも進んでいる。英ロールス・ロイスが加圧水型軽水炉(PWR)の技術を転用しつつ、IT活用で運転などの効率化を図った小型原子炉を開発している。米国ではビル・ゲイツ氏が会長を務めるテラパワーなど10社程度のベンチャーが開発中だ。中でも07年創業のニュースケール・パワーは、20年代末の商業運転を目指し米国各地で建設計画を進めており、20年8月には初めて設計承認を取得している。

 ニュースケールの計画にはプラント大手の日揮ホールディングス(HD)が参画している。ニュースケールに4000万ドル(約44億円)を出資した上で、まず米アイダホ州での発電所建設に参加し、同業の米フルアとともに建設管理を担う。ニュースケールの計画には韓国の斗山重工業も参画し、主要機器を供給する予定だ。

 原発の問題解決か

 小型原子炉には、国内電力会社も関心を寄せている。関西電力は2月に発表した「ゼロカーボンビジョン2050」で小型原子炉の導入の検討を盛り込むなど、脱炭素に向けた有力技術ととらえている。

 脱炭素化は喫緊の課題となっているが、その実現は容易ではない。再生可能エネルギーの導入が順調に進んだとしても、50年時点の電源構成に占める割合は日本を含む多くの国で50~60%にしかならないとみられているからだ。

 運転時にCO2を排出しない原発を組み合わせれば実現に近づくが、11年の東京電力福島第1原発事故もあり、原発への不信感は薄れていない。同事故を機に、より厳格な安全対策が求められるようになった結果、軽水炉の建設コストも以前よりはるかに高くなっている。

 小型原子炉に注目が集まるのは、軽水炉より安全性が高く、建設コストも安いため、既存原発が抱える問題を解決する可能性を秘めているからだ。原発への不信感の払拭や、使用済み核燃料の処分方法確立といった課題はあるが、日本政府は小型原子炉の海外プロジェクトに加わる日本企業を積極的に支援していく方針だ。(井田通人)

■小型原子炉の実用化に取り組む主な企業

ロールス・ロイス(英国)/軽水炉の技術を転用。IT活用で運転などを効率化

ニュースケール・パワー(米国)/2020年代末の稼働を目指し米国各地で建設推進

斗山重工業(韓国)/ニュースケールの計画に主要機器を供給

日立GEニュークリア・エナジー/異常時でも外部電源と運転操作なしに炉心を冷却可能

東芝/冷却材に液体ナトリウムを使う高速炉など2種類を開発

三菱重工業/主要機器を原子炉容器内に統合するため小型化が可能

日揮ホールディングス/ニュースケールの計画で建設管理を担当

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