デジタル社会の未来

(中)失った声、本人そっくり再現

 難病患者データをAI合成

 「このTシャツは僕がデザインしました。作曲もしています」。全身の筋肉が次第に動かせなくなる難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者、武藤将胤さん(34)がゆっくりと話し始めた。しかし聞こえているのは本当の声ではない。声を失う前に録音したデータを基に人工知能(AI)が合成した本人そっくりの「デジタルボイス」だ。

 目の動き追い文章化

 広告代理店に勤めていた27歳の時、スマートフォンを持つ手が震え始めた。服のボタンを留めることができなくなり、食べ物をのみ込むことも難しくなった。

 肺炎を防ぐため、いずれは気管を手術しなければならない。しかし手術すると自分の声が出せなくなる。「声を残したい」。ラジオDJもしていた武藤さんにとって声は大切な存在だった。東芝のグループ会社と協力し、自分の声からAIで合成音声を作り出す技術開発に携わった。

 2020年1月、手術を終えて声を失った。現在は意思を伝えたいとき、タブレットに表示された文字を目の動きで追って文章を作成する。数秒後、デジタルボイスが武藤さんの声で文章を読み上げる。

 ALSの啓発を行っている団体「WITH ALS」で武藤さんと一緒に活動する柴田菜々さん(28)は「まるで本人が話しているようだ」と驚く。

 今動かすことができるのは目と手の指と足先だけ。「自分の声は大切なコミュニケーション手段。テクノロジーを駆使して自分らしい生活を続けたい」。デジタルボイスで話す武藤さん。将来治療できる日が来るのを待ち続けている。

 無料で誰でも使える

 デジタルボイスは、無料のアプリ「コエステーション」で誰でも利用できる。スマホに向かい文章を読み上げると数十分後に「声」が完成。文字を入力し発話させることができる。録音量が多いほど自分の声に近づき、喜んだり怒ったりしている声にも変えられる。

 サービスを提供するコエステ(東京)の金子祐紀さん(41)は「病気やけがで声が出なくなった人が自分の声で意思を伝えることができる」と説明。有名人の声で好きな文章を読み上げたり、生前に合成音声を作成して死後に自分の声でメッセージを読み上げたりすることも可能だ。

 ただ詐欺などに悪用される心配もあるため、本人の許諾を得た場合のみ、IDとパスワードを入れて利用できるようにしているという。

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