コロナ直言

(5)日本ならではの事情、法の見直しで柔軟対応を 三鴨廣繁氏

 日本は海外のようにサーズ(重症急性呼吸器症候群=SARS)やエボラ出血熱といった感染症で苦労した経験が近年はそれほどなかった。そのため感染症に対する国の投資や、研究者を育成する土壌作りがあまり進んでこなかった。基本的人権を尊重するがゆえ、海外のロックダウン(都市封鎖)のような個々の行動を厳しく制限する強い措置が取れない。医療体制の構築やワクチン接種など、さまざまな対応が後手に回っているとの批判は、こうした日本ならではの事情が背景にあるのではないか。

 日本はワクチン開発の途上国といえる。過去にMMR(新3種混合)ワクチン接種による健康被害などがあり、ワクチンに不信感を抱く国民が少なくないことから、国は国産ワクチンの開発に消極的になってしまった。その結果、新型コロナウイルスワクチンも外国産を導入せざるを得ないが、どこも“自国ファースト”。日本への供給量は限られてしまう。

 《ワクチンをめぐり、全国の政令指定都市でつくる指定都市市長会は人口が集中する都市部への戦略的供給を国に要請。一方、鳥取県の平井伸治知事は「大都市と地方で命の重みは同じ」と批判した》

 感染者数は人口密度に比例する。重症化リスクの高い高齢者から全国一斉に接種を開始することは理解できるが、私は東京や大阪など都市部から、若い人も含めて優先して打つべきだと思う。ただ、これは憲法が定める法の下の平等の観点から実現は難しいだろう。

 今後は、国において研究者の育成や国産ワクチンの開発奨励など、感染症への新たな向き合い方を検討すべきだ。私は早晩ロックダウンが必要になると思う。先に述べたワクチン接種の問題も含め、こうした柔軟な対応が可能になるように、感染症法や予防接種法といった法律の見直しもぜひ議論してほしい。

 メディアの情報発信の仕方にも要望したい。「コロナはただの風邪」という意見がインターネット上でも見られるが、これはまったくの間違いだ。季節性インフルエンザの死亡率は0・1%だが、世界のコロナでの死亡率は約2%。全国民が免疫を持てば「ただの風邪」になるかもしれないが、感染力の強い変異株や後遺症の問題もある。

 国や自治体はコロナに対するメッセージをホームページなどを通じて発信しているが、限界がある。大多数の国民は危機感を持っているが、そうでない人もいる。コロナは恐ろしいということをメディアはしっかりと伝えてほしい。(聞き手 小川原咲)

 【プロフィル】みかも・ひろしげ 愛知医科大教授、医師。日本感染症学会理事で、日本野球機構(NPB)とサッカーのJリーグが連携して設置した「新型コロナウイルス対策連絡会議」の専門家チームではアドバイザーを務める。専門は感染症学。

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