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EV敵対で孤立する豪政府 購入補助なし、脱炭素の世界的潮流に逆行

 米テスラをはじめ世界の電気自動車(EV)メーカーの多くは先進国で成功を収めてきた。ただ、オーストラリアは例外だ。同国ではトラクターでさえEVの2倍売れている。

 映画「マッドマックス」でメル・ギブソンがスーパーチャージャーを搭載したフォード「ファルコン」を豪州全土で走らせてから40年以上が経過したものの、同国はなお世界的な電動化の潮流に逆らっている。

 英国や欧州連合(EU)の新車販売台数に占めるEVの割合は2020年に10%以上に上昇したのに対し、豪州はわずか0.7%にとどまる。

 EVに不寛容な豪州の姿勢は世界の自動車メーカーの不興を買っている。自動車各社はEVの購入補助金を提供し、より積極的な排出削減目標を掲げる市場に注力するため、同国での新車発売を見合わせている。

 費用対効果を認めず

 ブルームバーグNEF(BNEF)によると、豪州では道路交通分野での脱炭素化が日米欧の先進国に中国などを加えた20カ国・地域(G20)の中で最も遅れている。同国がインドネシアやトルコといった新興国にさえ後塵(こうじん)を拝する現状の背景には、EVの成長を阻む保守的な政府と、技術革新に取り組む世界の自動車業界との間のイデオロギー闘争がある。

 シドニーを拠点とする業界団体の電気自動車協会(EVC)のベハイアド・ジャファリ最高経営責任者(CEO)は「豪州はEVメーカーにとって敵対的市場になっている」と指摘する。同国の政策が「国民を“ガソリン車中毒の集団”のように見せてしまう」と危惧するジャファリ氏は、英国や欧州政府が実施しているようなEV購入者への補助金支給を豪政府に望んでいる。

 人口1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が世界トップクラスである豪州では、CO2排出量のうち運輸分野からの排出量が18%を占める。同国で昨年起きた森林火災では英国相当の面積を焼失したほか、3000軒以上の家屋が破壊され、気候変動に対する脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった。

 一方、豪政府は20年に発表したエネルギー技術の投資政策「技術投資ロードマップ」でEV、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)について「情報収集が必要な技術分野」と定めるにとどめた。直近では今年2月に発表した「未来燃料戦略」と呼ばれるディスカッション・ペーパーで、新技術はCO2排出削減のきっかけになることは認めながらも、補助金の提供については「費用対効果が見込めない」と切り捨てた。

 こうした豪政府のEV政策について、欧州自動車最大手の独フォルクスワーゲン(VW)は「発展途上国の政策と同等」と痛烈に批判。同社は昨年欧州で発売した全電動ハッチバック「ID.3」と全電動クロスオーバー「ID.4」の豪州への市場投入を23年以降に見送る方針だ。

 日産自動車も一部のEVの豪州での発売を見合わせた。見合わせの理由について同社は「首尾一貫した国家目標や支援策の欠如」を挙げた。

 購入時の補助金の拠出がないため、同国では高い価格がEV普及のネックとなっている。政府のデータによると、昨年末時点で同市場にはEVモデルが約50種あったが、燃料電池車(FCV)より価格が安いのはほんの一部だ。テスラのEVセダン「モデル3」の最低価格は6万6900豪ドル(約560万円)で、上級モデル「モデルS」は18万9990豪ドルにも上る。これに対し、米国市場でのモデル3の価格は3万8490米ドル(約417万円)で、中国市場では24万9900元(約415万円)だ。

 CO2ゼロ政策拒む

 EVの販売は従来型の自動車と同等の価格にまで下がれば回復する可能性があるが、需要はなお低迷すると予測されている。BNEFの昨年の試算によると、豪州の新車に占めるEVの割合は30年になってもわずか18%にとどまる見通しだ。

 モリソン豪首相は化石燃料とEVを政治手段として利用し、CO2排出を実質的にゼロにする取り組みを拒むことで、国際的な孤立を深めている。17年、同氏は議会にこぶし大の石炭の塊を持ち込み、「怖がらないで、これ(石炭)はあなたを傷つけない」と野党・労働党に訴えたことで知られる。

 さらにその2年後の選挙遊説では、EVについて「トレーラーやボートを牽引(けんいん)できない」「週末の計画を台無しにする」などと一蹴。モリソン氏はその後、同選挙で予想外の勝利を収めている。

 政策をめぐる不確実性が高く、公道を走るEVの数自体も非常に少ないことから、豪州では人口の多い東海岸以外での充電設備の数が比較的少ない。EVCの昨年の年次報告書によると、タスマニア州やノーザンテリトリー州に設置された充電スタンドの数は合計でわずか数十程度だ。

 EVCのジャファリ氏は「政策の欠如はあらゆる問題の引き金となる」と警鐘を鳴らした。(ブルームバーグ Angus Wihtley、Georgina Mckay)

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