リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

「環境・意識・情報」のバリア解消 ミライロ・垣内俊哉社長(2-1)

  高齢者や障害者らを含め誰もが利用しやすいように配慮したユニバーサルデザインの環境整備にミライロは2010年の設立以来、奔走してきた。製品や移動環境といったハードと、意識や情報などソフトの両面から障害のある当事者視点を生かしてコンサルティングを手掛け、デジタル障害者手帳など画期的なサービスを開発。自ら車いすを利用する垣内俊哉社長は「バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、社会を変革する」と話し、高さ106センチの車いす目線から生まれるバリア解消策を世界に発信していく。

 声かけを当たり前に

 --事業内容は

 「高齢者や障害者、LGBT(性的少数者)、子供連れ、外国人といった移動や生活に不安を感じている人たちが直面する『環境・意識・情報』の3つのバリアの解消に取り組んでいる。このうち意識のバリアを解消するには、一人一人のユニバーサルマナー(多様な人々の心遣い)の充足が求められる。日本人は困っている人を街で見かけても無関心か、過剰なおせっかいのどちらかの態度を取る。対処の仕方を『知らない、分からない、経験がない』からで、われわれがサポートすることで、この『ない』をなくし『何かお手伝いできることはありますか』との声かけが当たり前の社会、マナーにする」

 --環境と情報のバリアについては

 「障害者にとって環境のバリアは道路や建物の段差やトイレなど。解消するため誰もが安心・安全で快適に暮らせる空間づくりを障害者目線からプロデュースする。商業・公共施設、教育機関など既存施設のユニバーサルデザイン化に向け現地調査し改善提案を行う。また初めからバリアをつくらない施設や街づくりをアドバイスする。3つ目の情報については、誰もが外出時に求める情報の積極的な発信を企業や団体と進めている」

 日本は世界の手本

 --見据える社会は

 「誰もが外出したくなる社会の実現だ。今夏の東京五輪・パラリンピック(オリパラ)、25年の大阪・関西万博の開催時に、日本はユニバーサルデザイン先進国として世界から注目されるはずだ。『日本はバリアフリーが進んでいない』というのは誤解で、環境面においてはむしろ日本は世界のお手本といえる」

 「例えば地下鉄のエレベーター設置率。東京はオリパラ開催が決定した14年の68%から18年は90%超に高まった。同年に調べた際には大阪は100%、名古屋は92%だ。一方でパリは3%、ニューヨークは25%にすぎない。エレベーターの普及を一つとっても障害者らが暮らしやすく、自由に外出できる社会性を実現できる。さらに外出は食事や買い物など消費を生むため経済性も伴う。社会性と経済性を両立するユニバーサルデザイン化に持続的に取り組み、自信を持って『世界に誇れる日本』を発信していきたい」

 --オリパラが契機となる

 「視覚障害者が移動しやすいように路上に敷設された点字ブロックは世界で最も早く1967年に岡山市で誕生し、70年の大阪万博を機に広がった。今では世界75カ国で使われている。私は東京オリンピックの大阪府の聖火ランナーとして4月14日、万博記念公園の太陽の塔の背面を感慨深く走った。というのは70年の大阪万博がバリアフリーの起点となり、今夏のオリパラに向けて地下鉄のエレベーター設置などが進んだ。開発したデジタル障害者手帳『ミライロID』を利用できる交通機関も増えている。2025年の万博はどうなるのか。ミライロに宿題が出されたと感じたからで、この火を絶やすわけにはいかない」

 デジタル障害者手帳の利用拡大

 --ミライロIDとは

 「障害者手帳の所有者を対象としたスマートフォン向けアプリで、手帳の情報のほか、車いすの大きさなど福祉機器の仕様、求めるサポートの内容などを登録できる。ミライロIDを本人確認書類として認めている交通機関や映画館などの施設で、手帳の代わりにミライロIDを見せると障害者割引をスムーズに受けられる」

 --アプリを開発したきっかけは

 「私は4歳の時、手帳を交付された。日本には約960万人の障害者がいて、その多くが手帳を所持している。手帳による運賃割引は1952年から始まったが、それを受けるためには常に手帳を持ち歩かなければならない。しかし、カバンから取り出す手間や人前で見せることに抵抗があった。紛失や個人情報の漏洩(ろうえい)リスクもつきまとう。しかも手帳のフォーマットは265種類あり、事業者側も本物かどうかの確認が負担になっていた。そこでポケットからさっと取り出せるスマホアプリを開発、2019年7月にリリースした」

 企業とつなぐツール

 --利用範囲が広がっている

 「当初は6社だったが、今年の5月1日時点で1400社を超えた。公共交通機関やレジャー施設などに加え、自治体も参画しミライロIDが利用しやすくなった。これに伴い利用する障害者も増えており、特に3月13日にJR各社を含む全国84の鉄道会社で導入されると全国規模でアプリが登録された。現状の登録者は数万人規模だが、これから急速に普及し数十万、数百万規模に膨らむとみている」

 --今後の展開が楽しみ

 「手帳の代わりにアプリを掲示する代替手段としての役割が大きいが、窓口でしか購入できなかった障害者割引料金のチケットをオンラインで購入できるようにするなど機能を拡充し、さらにクーポン機能を加えた。これにより障害者割引を導入していなかった飲食店やコンビニなどが、障害者にアプローチできる新たな手段ととらえて参画した。店頭にミライロIDが使えることを示すステッカーを貼っているところもあり、使えないところの方が少なくなることを目指す」

 「今後はオンライン決済などもさらに進め、窓口にわざわざ行く必要がなくなるという新たな役割を拡充し、障害者と企業をつなぐ架け橋としてのコミュニケーションツールのようなアプリを目指していきたい」

 地道な営業で実績

 --起業はいつごろ意識したのか

 「最初は義肢装具に興味を持ったが、車いすに座ったままでは作れないという現実を知り、それならば経営者になろうと考え、経営を学ぶため立命館大学経営学部を受験した。高校を中退し偏差値30台から受験勉強を始めたので、まさに宝くじに当たった感じで合格した。縁も生まれた。民野剛郎(ミライロ副社長)と出会ったことが転機となり2人でビジネスプランを練り起業した」

 「入学して生活費を稼ぐためウェブ制作会社でアルバイトを始めた。そこで社長から『営業をやれ』と命じられた。当時はバリアフリーではないところが多く、必死になって外回りしていると、お客さまに『車いす』を覚えてもらえ、営業成績がトップになった。この時、社長から『歩けないことに胸を張れ』といわれた。『歩けない(障害がある)からできることがある』ことを知り、車いすが私の強みであり、自分にも価値があると気づいた。バリアはバリューに変えられると確信し、『バリアバリュー』を企業理念に掲げた」

 --創業からの10年を振り返ると

 「車いす目線で大学構内とその周辺のバリアフリーマップを作るというビジネスプランで10年に立ち上げたが、経営の経験もなく事業計画通りに進まない。初年度の売り上げは126万円という『経営ごっこ』で終わった。しかし障害者目線でアドバイスできる強みを生かしコンサルティングをスタート、『ハードは変えられなくてもハートは変えられる』をコンセプトにユニバーサルマナー検定も事業に加えた。同時に地道に営業活動を展開し、徐々に認められるようになって業績も向上した。今では社員数も50人を超え、東京、大阪、福岡の3拠点を持つまでになった」

【プロフィル】垣内俊哉

 かきうち・としや 2012年立命館大経営学部卒。在学中の10年にミライロを設立し社長。13年8月に日本ユニバーサルマナー協会を設立し代表理事。32歳。岐阜県出身。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus