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消費者の要望に応え、新製品を生み出そう

 消費者からの要望が課題解決のきっかけとなり、新製品開発に結びつくことは多い。スマートフォンやタブレットなどのタッチパネルに使う抗ウイルスの液晶保護フィルム「キルウイルスTP」が、そうだった。当社は2020年10月に、銅の粒子を練り込んだ半透明の除菌フィルム「キルウイルス」を発売した。それを知った消費者から「半透明ではタッチパネルに使えない。もっと透明度を高くできないか」との要望が寄せられた。(リディアワークス代表取締役・小林史人)

 原材料を薄めて混ぜたり、薄く延ばしてフィルムに塗ったりして透明に近づけることはできる。しかし、それでは除菌効果が弱くなる。効果を維持するために成分を溶けやすくし、抗ウイルス性を高めることを考えた。薄めて透明にしても性能を維持することと、室内の可視光(蛍光灯の光)や暗い場所でも効果が変わらないことを条件とした。

 初めに抗ウイルス性能が高い原材料を探した。銅よりもさらに強力な抗ウイルス性能を持つ原材料を薄めることで透明にするのはどうかと考えた。しかし、安全に使用できるものはなかった。次にフィルムに塗った成分を溶けやすくすることで効果を早くするものを検討した。こちらは、溶け出しやすい半面、時間がたつと効果が弱まってしまうことから持続性に問題が生じた。

 突破口となったのは、触媒の研究者から寄せられた「マイナス電子による抗菌・抗ウイルス効果はどうか」という提案だ。マイナス電子にウイルスや細菌が触れると中和され、タンパク質が変性することで不活性化する。生卵をゆでるとゆで卵になるように、細胞が変性し感染できなくなる。これなら薄めて透明にしても1時間に99%以上を除菌できる。

 一般的な光触媒による活性酸素の効果は強い紫外線が必要だが、この手法なら室内の光やタッチパネル画面の光からエネルギーを充電することでマイナス電子を放出する。抗ウイルス効果が維持できる。

 省人システム化や飛沫(ひまつ)・接触感染防止のため、タッチパネル端末の導入によるセルフサービスが増えている。高性能フィルムで常にウイルスが除菌されれば、安心してタッチパネルを使える。ボタンの被膜フィルムや、高度な衛生環境下で使われる機器パネルにも応用できる。透明なコーティング材を転用することで、一般的な保護膜であるハードコート層にも手軽に抗菌・抗ウイルス加工ができるようになる。ウイルスや細菌を素早く、持続的に除去することで少しでも不安を和らげられたら幸いだ。

【プロフィル】小林史人 こばやし・ふみと 本所高卒。山崎組、京王運輸、プロラボを経て2003年に家業のコバヤシ看板入社。10年リディアワークスを設立。誰でも上手に張れて環境にも優しい布看板「ルーファス」を開発し2019グッドデザイン賞ベスト100、2020年はばたく中小企業300社(経産省)選定。20年には除菌フィルム「キルウイルス」を開発し販売会社ウイルスケア設立。42歳。東京都出身。

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