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パブリシティ権はベースボールカードから生まれた

 米小売り大手ターゲットは、米プロスポーツリーグやポケットモンスターなどの「トレーディングカード」の店頭販売を一時的に中止した。ウィスコンシン州の店舗で、スポーツカードをめぐって顧客の男性が4人組のグループに襲われる事件が起きたことを受け、顧客と従業員の安全確保を最優先に決断を下したという。(GBL研究所理事・宮田正樹)

 用具会社の宣伝用に

 米国ではトレーディングカードはコレクターも多く、大きな市場となっているが、現在の新型コロナウイルス感染拡大による外出制限などの影響で人気が急上昇している。

 トレーディングカードの歴史をひもとくと野球選手の肖像を印刷した「ベースボールカード」に行き着く。このカードが登場したのは1869年。あるスポーツ用具会社が自社の野球用具の宣伝用に製作したものだといわれている。このベースボールカードが、他のスポーツ選手のものやポケモンのようなキャラクターを使用したものを含め、「トレーディングカード」と呼ばれている。

 その後、ベースボールカードは食品の販促物として利用され、20世紀に入ると子供を対象として菓子の販促物としての利用が主となっていった。1933年には5社のチューインガムメーカーがベースボールカードの採用に踏み切っている。

 48年には、ボーマンガム(後のハーラン・ラボラトリー)が106人のメジャーリーグ選手と「他のガムメーカーには肖像を使わせない」とする誓約を付けた独占的肖像使用契約を締結した。ボーマンは年々契約選手とカードの種類を増やし、ガムの売り上げを伸ばしていった。

 独占的使用権で裁判

 そうなると当然これに対抗しようという同業者が出現するわけで、その最大の競争者として出現したのがトップス・チューイングガムであり、52年に407種類のベースボールカードをチューインガムに付けて販売を始めた。その大半はボーマンのカードに登場する選手たちと同じ顔ぶれであった。

 そこで、52年にハーラン(元ボーマン)はトップスを相手取り、ニューヨーク連邦裁判所(地方裁判所)に不正競争行為、商標法違反、プロ野球選手との独占的契約に基づく権利の侵害として提訴した。

 これに対し、被告のトップスは、プロ野球選手に認められる権利は「プライバシー権」であるとし、プロ野球選手が自己の肖像について独占的使用権を付与する契約をしたということは、単にプライバシー権侵害で訴える権利を放棄したことを意味するだけであり、ハーランがトップスを訴えることができる権利を得ているわけではない、と抗弁した。

 地裁の段階ではハーランの主張が退けられ、トップスが勝訴したが、控訴審では一転してハーラン有利の判決が下された。このとき、控訴裁判所が下した判決の中で、判例で認められていたプライバシー権とは別に、多くの著名人には広告物にその容姿を露出され、それを認める代わりに報酬を受けることができる排他的権利としての「パブリシティ権」が認められるべきであるとの判断が下された。

 このとき肖像権に「その容姿を露出することを許諾することに対する対価を請求することができる権利」としてパブリシティ権が誕生・確立し、世界に広がっていったのだ。そして、いまやスポーツを含めエンターテインメントビジネスの大きな収益源となっている。

【プロフィル】宮田正樹 みやた・まさき 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。

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