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有事の時ほど人の心は…エステーのCMがこの1年、強みをあえて封じているワケ (3/3ページ)

 そして始まった新CMの制作では

 こうした中、エステーの冷蔵庫用消臭剤「脱臭炭」のテレビCMの制作がスタートします。打ち出したメッセージは「不条理な心を溶かすために、何気ない生活を楽しもう」です。広告クリエイティブでは底抜けに明るくて、能天気。見てくださった方がほんの少しでも、不条理な気持ちから解放されるようなものにしよう。そう思って制作したテレビCMはこんな内容でした。

 出演者の元モーニング娘。の高橋愛さんと田中れいなさんが、部屋の中で楽しそうに食事をしています。舞台は、高橋さんが投稿したSNS「インスタグラム」からヒントを集め、ご自宅を再現したものです。高橋さんの家に、田中さんが遊びに来たという設定です。

 「愛ちゃんって得意料理とかあるの?」

 「うん、冷やし豆腐にキャビアを添えて、かな」

 「フランス料理?」

 「発酵させたビーンズにネギを添えてとか」

 「それ、納豆だよね」

 取るに足らない、だけどクスッと笑える会話をしながら、2人が冷蔵庫に脱臭炭を設置します。カメラは2人が歌うCMソングとダンスを追いかけて、そのまま冷蔵庫の脱臭炭に迫っていきます。

 ♪冷蔵庫のにおいをとろう

 ♪炭の力でにおいをとろう

 ♪美味しい料理だ

 ♪おうちが楽しい

 ♪脱臭炭

 正論をうのみにせず、問い直す大切さ

 このテレビCMの撮影時、部屋を模したセット内には高橋さんと、田中さんの2人しかいません。小型ドローンを使っての無人撮影という初めての試みでした。途中、小型ドローンがセットにぶつかり落下するというアクシデントもありましたが、なんとか部屋を飛び回りながら撮影するという一発撮りを成功させたのです。撮影現場に入る人数を少なくし、さらには収録時間も短くすることで感染リスクを抑えるというアイデアが、新たなクリエイティブを生み出したのです。

 このテレビCMは緊急事態宣言が解けた直後の2020年6月10日に撮影しています。広告制作のガイドラインに従って制作されていますが、広告クリエイティブでは、世の中で語られていた正論をそのままうのみにはしていません。有事のときだからこそ、「有事で変化した、お客様の心」に徹底的に寄り添う姿勢を目指しました。

 世の中に「△△だから、◯◯すべき」という正論があふれ始めたときは注意が必要です。違和感を覚えても、正論を持ち出されると反論しづらい。多くの人が本音を押し殺し、本当は納得していないのに「しょうがないことだよね」と自分をなだめてしまいます。何の疑いもなく、素直に従ってしまう人も大勢います。でも、そこで語られている「正論」は本当に正しいことなのでしょうか。「それって本当?」と今一度問い直し、考えたうえで行動を起こすことが大切なのではないかと考えています。

 鹿毛 康司(かげ・こうじ)

 クリエイティブディレクター

 株式会社かげこうじ事務所代表、マーケター。早稲田大商学部卒業後、雪印乳業を経て、2003年にエステー入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て、2020年に独立、かげこうじ事務所を設立。代表作は消臭力CM。11年震災直後の「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」で一大社会現象を起こす。現在、グロービス経営大学院 教授、エステー コミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンド アドバイザリーボードメンバー/Ad-tech 東京ボードメンバー。著書に『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)、『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP社)などがある。

 (クリエイティブディレクター 鹿毛 康司)(PRESIDENT Online)

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