リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

リンベル・東海林秀典社長(1)カタログギフト、高品質・品数に強み

 富裕層特化でネット通販と差別化

 結婚式の引き出物や中元・歳暮の贈り物にすっかり定着したカタログギフト。そのパイオニアとして市場を切り開いてきたのがギフト商社のリンベル。高品質と豊富な品ぞろえが強みで、世界の一流ブランド商品や高級グルメ商品に注力する戦略が奏功した。インターネット通販が台頭する中でも、創業者の東海林秀典社長は「勝てないけれど負けない。そのためには富裕層に顧客を絞るなど割り切る。まだまだ伸びる」と持ち前の商品力で勝ち残りを図る。

 広がる利用シーン

 --カタログギフトに乗り出した理由は

 「創業した1987年当時、結婚式の引き出物は『重い、かさばる、同じものばかり』で、もらう側も飽きているのではないかと考えた。贈る方が商品を選ぶのではなく、贈られた方がカタログに載せてある商品の中から好きなものを選ぶというスタイルをリンベルがブライダル市場に導入した。この逆転の発想がリンベルの出発点だ。カタログに載せる商品は通常よりいいものを生産者から直接扱うことにした。商品数も増やした」

 --結婚式の引き出物のイメージが強いが、現在の利用シーンは

 「創業当時は、結婚式の引き出物や香典返しなど冠婚葬祭で使われることが多かった。商品も陶器や漆器、繊維製品など日用雑貨品が中心だった。今はずいぶんと変わった。これほど伸びるとは思わなかったが、90年代半ばのグルメブームがあって食品が登場。これが転機となって中元・歳暮用として利用されるようになった。最近では各種のお祝いやお返し、母の日などのパーソナルギフト、法人ギフトまで広がっている。それに伴いさまざまなシーンでカタログギフトを展開し、ラインアップも50種類を超えた」

 --この間にリンベルらしさを作り上げてきた

 「メーカーに近づくことが企業発展につながると考え、商流の川上から川下(商品企画から、生産、販売)まで手がけられる企業を目指して取り組んできた。商品を卸すだけでなく、全体を自社で賄える体制を整えることができれば、利益を確保しながら幅広い分野にも対応できるからだ。『リンベルのギフト』というブランドを守り、価格競争にも巻き込まれないためには、いい商品を提供するしかない」

 「日本の極み」展開

 --そのために取り組んだことは

 「食品は山形出身という人脈を生かし、扱う商品を増やしていった。地元の農協も応援してくれた。山形はサクランボなどの果物、コメ、酒など食材の宝庫。その生産地の真ん中に拠点(山形市)を設けており、車で30分も走ればいいものを調達できる。ただ、一番いいものは百貨店や専門店と取り合いになる。知名度が高く、資本力も備えるライバルにどうすれば勝てるかを考えたとき、大事なのは生産者の目線に合わせることだと気付いた」

 「そこで消費者にも、生産者が丹精込めてつくった食材の価値が伝わるように、品質は芸術品の域に達しているとアピールし、高く売ることだけを考えた。生産者も『価値がある』と意識が変わり、協力してくれるようになった。山形県産の農畜産物をブランド化した『山形の極み』を2015年に始めたが、県産の特産品を世の中に広めたと県から感謝され、『大高根農場記念山形県農業賞』を20年に受賞した」

 --山形の極みの取り組みは全国展開になった

 「地方創生を意識し、17年にオリジナルギフトブランド『日本の極み』を売り出した。地方にはいい商品をつくっているのに、それを売る手段を持たない生産者が多くいる。そうした商品を『日本の極み』として採用した。ギフトに適したパッケージのデザインなどにもこだわり、カタログギフトに掲載することで販売を支援している」

 「商品数は現在、700点を超える。社員バイヤーが全国から探し出し、私自身が試食して採用を決めたものばかりだ。審査員全員からおいしいと評価されず不採用となった商品もかなりあるが、バイヤーには『めげるな。いい商品だけを扱うのに必要なこと』といっている。極みのブランドを保つためには商品の品質を保証することが大事だ。品質の劣化を防ぐため抜き打ち試験も行っている」

 コロナで新たな需要

 --新型コロナウイルス流行の業績への影響は

 「結果的には若干のプラスとなった。20年3~6月は前年実績を割り込んだが、それ以降は2桁増となっている。挙式組数が減少する中、コロナ禍で結婚式など人が集まるイベントの中止・延期や、百貨店などの休業で売り上げは減少したものの、一方でECサイト(電子商取引)の売り上げは全体として大きく伸びたからだ。また、コロナ対応で自治体が一人親支援として、あるいは医療従事者向けにカタログギフトを贈るという特需が発生した。法人からは社員へのギフトや忘年会の代わりに利用するといった新たな需要も出ており、プラス要因となった」

 --商品開発でこだわってきたことは

 「有名ブランドの投入などにより『リンベルのギフト』の品質にこだわり、上質さを追求、百貨店で商品を選ぶような満足感を提供してきた、極みシリーズでは産地直送の高級フルーツギフトで競争力を高めることができた。日本の極みの派生版として19年に発売した『プレミアムデリバリー』は厳選した高級食材を小分けにしてちょっぴり贅沢を味わうもので、リンベルの味をおいしいと支持してくれる人に売ることでブランドを維持している。ポイント制を導入して14年に発売したカタログギフト『リンベル スマートギフト』も好調だ」

 「百貨店には実際に進出した。カタログギフト専門店『リンベル カタログギフト ブティック』を開設した。ギフトで大きなシェアを持つ百貨店とは創業以来、波瀾(はらん)万丈はあったが、今ではOEM(相手先ブランドによる生産)供給を行うなどウィンウィンの関係にある。ブティックは好調で、富裕層の獲得にもつながっている」

 --デジタル対応も欠かせない

 「自動車がエンジン車からハイブリッド車、電気自動車(EV)と変わっていくように、カタログギフトも紙からデジタルに進化する。それに伴いデジタルギフト需要も高まっていくと考え、20年2月に法人向けデジタルギフトの開発・販売を強化するため、オンライン贈答システムのギフトパッド(兵庫県西宮市)と共同出資でギフトクラウド(東京都中央区)を設立した。ギフトのデジタル化から商品供給、配送まで1社で提案でき、受注確度が高まった」

 「フラワービジネスにも乗り出す。中間業者を省き、限定した生産者からバラや胡蝶蘭、ユリなどを産地直送する。これにより鮮度が高く、長持ちする花を届けることができる。ただ単にフラワーギフトではなく、注文者の不安を取り除くため、贈った花の色やサイズが分かるように撮影して画像を送るサービスなども検討中で、デジタル化を活用して花の流通革命を起こす」

 ECサイトを強化

 --ネット通販との競争は

 「激化すると見ており、今後はECサイトを強化する。デザインや使いやすさなどをてこ入れするほか、広告やSNS(会員制交流サイト)などを活用した集客にも注力する。リンベルは、ネット通販のアマゾン・ドット・コムのような大量生産するメーカーから商品を仕入れて大量販売する、いわばどこでも買える商品で消費者を囲い込むビジネスモデルとは違い、少量生産者から仕入れた厳選商品を消費者に届けている」

 「扱っている商品の希少性、価値が支持されており、ネット業に勝てないけれど負けない。顧客も富裕層に絞り込み、富裕層が満足する商品をつくる。そのために必要な商品を確保できる生産者にアプローチする。中小企業だからできる。まだまだ伸びる余地は十分にある」

【プロフィル】東海林秀典 とうかいりん・ひでのり 山形大学工学部化学工学科大学院修士課程修了。1973年三菱重工業入社。81年家業の丸東商事に入社、87年リンベルを設立し社長。74歳。山形県出身。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus